翔泳社には、「装丁会議」と呼ばれる会議がある。制作中の書籍の部数や価格、そして「装丁(カバー)」を決定する大切な会議だ。
装丁会議は、社内で「恐怖の会議」と呼ばれ、恐れられている……というのは嘘だが、編集者にとって緊張の場であるのは本当だ。なぜなら、自分が作った装丁をチェックされ、場合によっては「作り直し」を命じられることも少なくないからだ。
ではここで、そんな「装丁会議」の一コマを紹介することにしよう(※以下はすべて実話である)。
6月某日、デスクで装丁会議の呼び出しを待つ。装丁の用意は万端だ。夕方、デスクの内線が鳴り、呼び出しがかかる。「6B会議室に上がって」。
会議室に入ると、翔泳社の佐々木社長以下、編集部、営業部の重鎮がズラリと顔をそろえている。その光景を見ると、いつも「アウェー」とか「敵地」という言葉が思い浮かぶのだが、なぜだろう。
「始めてください」。そう促され、企画の趣旨をざっと説明する。今回僕が提出するのは、『ポケット百科 facebook 知りたいことがズバッとわかる本 増補改訂版』という本。昨年出して売上好調だった本の改訂版である。概要を説明し終えたら、いよいよ装丁の提出だ。「これで行きたいのですが……」。ちなみに、そのとき出した装丁は以下である。
沈黙が会議室を支配する。実はこのとき、すでに僕の心は折れていた。沈黙は、大体の場合「却下」を意味する。ダメな装丁には、人を黙らせる力があるらしい。
……案の定、佐々木社長からダメ出しをいただく。この装丁で何を訴えたいのかが伝わらない、「増補改訂版」と謳う類書はいっぱいあるのだから、それ以外の要素をきちんとアピールしないとダメだetc...。
実は、佐々木社長はデザイナー出身である。そんなわけで、アドバイスはいちいち的確であり、説得力に満ちている。他の神々も、口々に装丁の欠点を意見する。「はい、はい」と繰り返し、うなだれる僕。たぶん傍から見たら、最終回のあしたのジョーみたいに見えたことだろう。
真っ白な灰になって会議室を出たら、すぐにデザイナーさんに電話し、手直しを依頼する。今回の書籍は、残念ながら校了が目前に迫っている。「明後日までにお願いします!」なんて、我ながら無茶なお願いをしてしまった。
……幾度かの調整を経て、最終的には以下のような装丁に落ち着いた。「プロが教える」「テクニック数」など、本書で特に伝えたいポイントをうまく整理することができた(気がする)。
以上、翔泳社の装丁会議のやり取り(の一部)を紹介した。書店に並ぶ翔泳社の本はすべて、この装丁会議をくぐり抜けたものだ。すべての本に編集者の苦労と、翔泳社のエッセンスが凝縮されている。
厳しいことを言われることもあるが、それでも装丁会議の存在は有難いものである。装丁は、本の魅力を伝える営業マンでなければならない。その役割を果たせているかをチェックしてもらえる場が、装丁会議なのだ。
今日も翔泳社の編集者は、装丁を抱えて、装丁会議に挑む。沈黙が訪れませんように、と祈りながら。
いしはら