普段は翔泳社のWebマガジンで企業向けのITやビジネスをテーマに編集や記者、サイトの運営などをしている私ですが、たまに本作りにも携わります。たまにというのは、たとえばWebで掲載した人気の連載記事などを書籍化したりする場合などです。
Webの記事を書籍化した時のメリットとして、例えば以下のようなことが挙げられるでしょうか。
・記事のアクセス数やソーシャルメディア等でのつぶやきなどを通じて、読者の反応がリアルタイムにわかるため、世の中のトレンドやニーズに応じて、素早くタイムリーに出版できる。
・いきなり書籍化では難しい(反響が読みにくい)企画を、まずWebで読者の反応をみてから出版できるため、出版リスクを下げることができる(企画が大きくコケる心配がない)。
・反響のあるコンテンツを二次利用(≒メディアミックス)することで制作コストやリスクを下げる。
・ウェブで書籍のプロモーションを打ちやすい。
とか、色々とそれらしいことを列挙することはできるわけですが、そんなに思い通りにうまくいくほど、本の世界(もちろんWebの世界も)は甘くはないわけでありまして…。
Webでのアクセス数(PV)やソーシャルでの読者の反響があまりよくなくても、本が売れる場合もたくさんあるし、逆にいくらWeb上で人気の記事であっても必ずしも書籍化して売れるわけではないですし。
これも一般的によく言われていることですが、Webと本では媒体の特性が違いますし、必ずしもWebの読者層と本の読者層は一致しているわけではありません。
ついでにいうと、Webと本では、テキストだけ抜き出して見ても、構成も文章の見せ方や文体やリズムも、あれもこれもそれもいろいろと違うわけで(もちろん、同じケースもあると思いますけど)、完全にイチから書籍用に書き直しだったり、大幅に改定する場合もありますし、媒体特性に応じた仕掛け作りや書き分けが必要になるわけで、単に人気のWeb連載記事をそのまま転載して書籍化しさえすれば、「これでベストセラーだ!やっほー!!」と、お手軽に成功体験を得られることはそうそうないかと思います。
そんなこんなで何かとツンデレで愛おしいモノ作りの世界ではございますが、私が編集を担当させていただいた、去年の11月に出版したこの本『ビッグデータビジネスの時代』は、タイミング的にはばっちりとハマった1冊でした。
この本は、まずWebでの連載がきっかけでスタートした企画でした。とはいえ、Web連載開始の2010年当初は、あまりにも早すぎた著者さんの“先見の明“ゆえに読者の反響やアクセス数はあまりよくはなく、著者さんと連載の方向性をどうしようかなと悩んでいた時期でもありました。
しかし、2011年の5月くらいから、あれよあれよと、この「ビッグデータ」というキーワードが(IT業界のなかでは)ぐっぐぐーん!と話題となり、Google Insights for Searchの「ウェブ検索の人気度:ビッグデータ」も証明するように(図)、ちょうどキーワードが盛り上がり始めた7月頃に本の企画が動き、ピークの11月のタイミングで出版することできました。
まさにウェブ→書籍ならではのグッドリズム、グッドタイミングの出版でした(とはいえ、この本もウェブの連載をそのまま本にした内容ではなく、ほんのごく一部のエッセンスのみです。著者さんにすごく無理いって頑張って原稿を書いていただきました)。
図:Google Insights for Search(グーグル インサイト フォー サーチ)で「ビッグデータ」の検索数の推移を調べてみてみた。
もちろん、こうしたあれこれは、あくまでも結果論でありまして、最終的には担当編集が「これは面白い!」、「これはイケる!」と強く信じれるかどうかというシンプルなところがもっとも重要なポイントであるのだなと思うのでした。
わたぐろ