アナログ技術を生かす、デジタル時代のフィギュア作り|翔泳社の本
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アナログ技術を生かす、デジタル時代のフィギュア作り 2015.05.08

 みなさんは「フィギュア」をお持ちですか? 一昔前、食玩やカプセルフィギュアも流行りましたが、最近ではコンビニでくじの景品になっていたり、人気アニメキャラクターのフィギュアCMもTVで流れているので、ホビー商品やコレクターグッズの枠を超えて、日常的に目にする機会も増えてきたかと思います。そのフィギュア業界が今、アナログからデジタルへと大きな変革期を迎えていることはご存知でしょうか?

フィギュアの制作はアナログからデジタルへと移行

 ひとくちにフィギュアといっても、アニメの人気キャラクターの商業もの、ゲームセンターのUFOキャッチャーなどにみられるプライズもの、個人の作成する一点ものなどさまざまですが、世の中に流通しているフィギュアには、それぞれ「原型」と呼ばれるおおもとのモデルがあります。

 「原型師」と呼ばれる人が、キャラクターのイラストなどをもとに立体として造形するのが原型です。3Dプリンターが登場する前までは、フィギュアの原型制作は、専用の素材を使って手作業で作るのが一般的でした(粘土を手でこねて仕上げていく人形と考えるとわかりやすいと思います)。

 ところが、それが3Dプリンターの登場によって大きく変わりました。デジタルで作成した人形のデータをそのまま立体出力できるようになったのです。デジタル環境を使うと、3ヶ月かかるところが1ヶ月でできてしまうケースもあり(!)、手でフィギュアの原型を作ってきた原型師の方は、デジタル技術の習得に力を入れるようになってきています。

 その一方で、これまでCGや3Dの分野で活躍してきた人も、自分の作品を3Dプリンターで現実の「物」として作成できるようになり、3Dプリンター出力を前提としたCGデータ作成のスキルを磨いています。

 このように、アナログとデジタルそれぞれの環境で作成して来た方の接点として、「デジタル原型」の世界がいま、広がってきているのです。

『デジタル原型師養成講座』著者・スーパーバイザー藤縄さん

 このように、原型師の裾野は広くなってきています。フリーのデジタル原型師という方、フィギュア制作のメーカーで働く方、また、仕事ではなく趣味で制作をする方も多くなってきています。

 2015年5月18日刊行の書籍『デジタル原型師養成講座』の著者、スーパーバイザー藤縄さんは、高校生のころに、精巧な造形で有名な「海洋堂」のフィギュアに感銘を受けて、フィギュア制作を開めたそうです。

 その後、コンテストにも入賞するまでになり、フリーランスのアナログ原型師として15年以上活動した後、2010年よりデジタル原型に徐々に移行してきました。  藤縄さんの名前を一躍有名にしたのは、2013年に作成した「艦これ・島風」のフィギュアです。クオリティの高さで脚光を浴びました。それ以降、アナログとデジタルの両方のスキルに詳しい原型師としてひっぱりだこです。

書籍の打ち合わせ段階からかなりディープな感じ!

 藤縄さんとの最初の打ち合わせは、新宿の某喫茶店。第一印象は「ただ者ではない」でした。フィギュアに関する知見の深さとその緻密な造形へのこだわり! 打ち合わせが終わるまで、私は圧倒されっぱなしでした。

 藤縄さんと打ち合わせを重ねるうち、デジタル原型の素晴らしさをきちんと伝えられるのは、アナログ原型を知り尽くしているこの人しかいないと思い、執筆を依頼しました。「あ、はい」という1つ返事で快諾してくれたことを今でも鮮明に覚えています。

 フィギュアの原画は、繊細なタッチで人気絵師のニリツさんに依頼。藤縄さん、ニリツさんとの打ち合わせでは、どういったキャラクターであれば多くの読者の方の興味を引くのか(実際に作ってみたいと思ってもらえるか)、検討に非常に多くの時間を割きました。結果として、原型師、イラストレーター、編集者の3者で、「中華包丁で戦う中華系女子高生」というキャラクター設定に着地しました。

 ちなみに、通常のフィギュア制作であればこうしたブレストはあまりないそうです。というのも原型師の方にくるお仕事は、すでに「キャラクターありき」のものが多いそうで、藤縄さん自身、こうした企画段階からブレストすることに新鮮な感じを受けたそうです。

アナログ原型の匠の技をデジタルで再現

 キャラクターが決まったあとも、ポーズや顔、武器など、原画とデジタルデータの間でのすり合わせが続きましたが、結果的には、市販のフィギュアに負けないクオリティのサンプルができあがりました。

 ガンプラ世代でもある編集者にとって、完成データをパーツごとに作成するフローは、ある程度イメージしていたのですが、緻密に作成する工程は、伝統芸術作品を作る匠の作業そのもので、アナログ造形の技術がデジタルでも生かされていると圧倒されました。

 本書『デジタル原型師養成講座』では、デジタル原型制作フローにもアナログ原型のノウハウがきっちりと盛り込まれているので、アナログ原型のノウハウがない方でも、イメージしやすいものとなっています。

 なにより市販品レベルのサンプルデータがあるので、本書で利用しているZBrushや3D-Coatを使えば、細かい部分の作り込みまで、知ることができます。デジタル環境でのフィギュア作成本気で学びたい方はもちろんですが、「ちょっと興味があるんだけど……」という方にも手に取ってほしいと思います。

みやこし

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