2019年6月に成立した「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」(読書バリアフリー法)をご存知でしょうか。この法律は、読書に困難を感じる人が利用しやすい電子書籍等(音声読み上げ対応の電子書籍、デイジー図書、オーディオブック、テキストデータ等)の普及・提供を図ることを目的としています。
読書困難者の定義はさまざまで、視覚障害者の方、年齢にかかわらず視力が低下している方だけでなく、発達性読み書き障害(ディスレクシア)、身体の障害によって書籍を持ってページをめくることが難しい方などが含まれます。このほか「忙しくて本を読む時間がない」といった多忙な毎日を送っている方も、読書にハードルを感じている人ととらえることができるでしょう。
「読書」という体験に、誰もが容易にアクセスできるようにするためのきっかけを電子書籍は提供することができます。たとえば、リフロー形式の電子書籍は文字の大きさや画面の色を、読む人の状況にあわせて読みやすいように変えることができます。また、テキストデータを使って音声として読み上げたり(TTS:Text to Speech)、点訳(点字への置き換え)することも可能になります。「デジタルだからできること」に注目が集まっているのはこうした理由によります。
しかし、電子書籍活用への期待が高まる一方で課題も多く、出版社、図書館を含めた業界や関係機関の取り組みは欠かせません。経済産業省の報告書によると、「電子書籍の市場規模は、書籍に比してシェアが2割弱であり、特に教育や研究において求められる電子書籍は極めて少ないこと等、多くの課題がある。」と指摘しています。
たとえば、紙面に図がある場合、それは画像ファイルとして電子書籍に組み込まれます。その図の中に文字があっても、それは「画像」であり「テキスト」ではないため、テキスト読み上げ環境があっても、図の中にある文字は読み上げることができません。こうした場合、その画像に「ここには●●の図があります」という説明文を追加する方法が考えられますが、適切な文言を誰がどのように作成し、組み込むのか。品質、使いやすさ、著作権、コスト、収益性……解消すべき課題は山積みです。
日本では、2022年にEPUB形式の電子書籍がアクセシブルかを評価し、結果を明示するための仕様「EPUB アクセシビリティ」の国際規格に対応した「JIS X 23761」が制定されました。また、2023年4月13日、W3Cは勧告案「EPUB Accessibility 1.1」を公開。EPUB形式の出版物のアクセシビリティの評価だけでなく、アクセシブルなEPUB出版物を見つけやすくするメタデータのガイドラインを示しています。
SDGsが掲げる「誰一人取り残さない(leave no one behind)」という力強いメッセージにつながる、読書におけるアクセシビリティ、バリアフリーとして実現するための大きな流れが、いま生まれつつあります。私たち電子書籍制作チームもこの流れをキャッチアップし、電子書籍の未来像を描いていきたいと思います。
制作課 電子書籍チーム