アクティブ・ラーニングとプログラミングで理科の実験を実施
2番目に紹介するのは、大阪市立苗代小学校の金川弘希先生が実践している、理科の振り子の単元でプログラミングを取り入れた授業です。
金川先生自身はパソコンが大の苦手とのことですが、児童がプログラミングに夢中になる姿に後押しされて、授業に取り入れようと決意したそうです。大阪市教育センターの「がんばる先生支援」事業で助成を受け、学校の中核としてプログラミング教育を推進されています。
同校にはパソコンルームも完備されており、Wi-Fiも完備。今回の授業ではそれに加えて、レゴと包括協定を結ぶ大阪市阿倍野区から「レゴ マインドストーム EV3」を借りて行われました。ディスプレイの画面上だけではイメージしづらいプログラミングも、ロボットを用いることで具体的なものとして捉えることができるのが利点だそうです。
単元としては、パソコンでプログラミングをしてレゴ マインドストーム EV3を動かし、おもりの重さや糸の長さなどを変えて振り子の動く様子を調べ、振り子の運動の規則性について理解することが狙いです。
全6時間の単元のうち、紹介するのは実験を行う2~4時間目。振り子ロボットを作ってプログラミングを行います。
振れ幅・振り子の長さを変える実験の考察・まとめ
3時間分をかけて行う授業の狙いは「振り子の運動の変化とその要因を関連付けて考察し、自分の考えを表現する」こと。授業の展開は以下のとおり。
時間 | 子どもの学習活動や子どもの思考(☆) | 指導上の留意点や指導者の支援(○) | 評価の視点 |
5分 |
◆前時に行ったおもりの重さを変えた実験の結果・考察を振り返り、問題の予想と理由を確認する。 ☆重さを変えても、振り子が1往復する時間はあまり変わらなかった。 ☆振れ幅を大きくしたら距離が長くなるから、1往復にかかる時間は長くなりそうだ。 ☆振り子の長さを長くすると、ゆっくり動きそうだから、1往復にかかる時間は長くなりそうだ。 ◆本日行う実験方法を確認する。 ☆振れ幅を変える実験からはじめよう。 ☆振り子の長さを変える実験からはじめよう。 |
○自分の予想と理由を確認させる。 基本となる振り子のデータ(長さ55cm、重さ310g、振れ幅15°)から1つの条件だけを変えてデータを取り、各グループ2つの実験を行うことを確認する。 ○グループで役割(プログラム転送係、おもりを放す係など)を交代して行うことを確認する。 ○調べる条件以外は、同じ条件にして、複数回実験を行うことを確認する。 |
◇予想と理由を確認することができる。 |
33分 |
◆決まった順番で実験を行う。 ☆振れ幅を30°に変える。 ☆振り子の長さを240cmに変える。 ◆結果を表にまとめた後、グラフにシールを貼って黒板に掲示する。 ☆グラフにシールを貼ったら、結果が見やすいね。 ◆結果から考察し、グループで交流する。 ☆このデータで、どこを比べてもひもの長さを長く したときだけ1往復する時間が長くなっている。 |
実験結果が出たグループから、結果をグラフにまとめて黒板に掲示し、考察をまとめておくように指示する。 ○各グループの結果を把握し、他と違う結果が出たグループの様子を確認しておく。 ○条件を変えることによって、結果が大きく変わっているか、変わっていないかという視点で見るように助言する。 ○自分たちのデータと比べて、同じところとおかしなところがないのかにも注目させる。 |
◇実験結果を確認し、グラフに表すことができる。 ◇グループ内で意見を交換することができる。 |
7分 |
◆考察を発表し、グループで交流する。 ★振り子が1往復する時間は、振り子の長さを変えたときだけ変わったな。 ★おもりの重さを重くしても、1往復する時間はあまり変わらないな。 ★ 振れ幅を大きくしても小さくしても1往復する時間はほとんど同じなんだね。 ★あのグループのデータは結果が違いすぎるな。おかしいな。 |
◇振り子の運動の変化とその要 因を関係付けて考察し、自分 の考えを表現している。 |
授業はまず振り子の設定基準を示してあげることが大事です。そのあとプログラミングで設定し、振り子を観察します。振り子の動きをグループで記入したら、結果を教師が比較しながら発表します。
金川先生の振り返り
――授業の中での工夫を教えてください。
学習は3人1組のグループワークで行いました。2人だと苦手な子同士がペアになってしまうと、活動が滞ってしまうからです。また、4人だと、1人だけ参加しなかったり、2人ずつで話してしまったりしてグループが分断してしまう問題が出てきます。そこで、3人組がちょうどよいのではないかと考えています。
グループ編成においては、学力差だけではなく、コミュニケーションを取るのが好きか嫌いかなどの子どもの特性も見極めています。
私はあくまで、プログラミングはアクティブ・ラーニングのツールとして使いたいと考えています。なぜならば、1人で行うプログラミングであれば自宅でもできるからです。
さらに、活動の中では、1人ひとりに達成感を抱かせることを重視しています。グループの中で認め合ったり、グループで発表をしてクラスメイトから拍手されたりすることで、授業内で達成感を持たせることができると考えています。
――教材を選んだポイントを教えてください。
レゴ マインドストームを選んだのは、子どもたちに実物でしっかりと説明できるからです。画面上だけのプログラミングの場合は、できる子は理解を深められるのですが、イメージできない子は置いていかれてしまう可能性があります。
また、画面だけですと、個人のワークが中心になるので子ども同士の会話が生まれにくい。教員側も、画面だけで子どもが取り組むよりも、実物が見えたほうが指導をしやすいですしね。実物があることで、子どもたちも授業を受けやすいし、教員側も授業がしやすくなるのではないかと思います。
――授業で印象に残っていることを教えてください。
子どもたちが夢中になって進めていく姿が印象に残っています。うまくいかなければ、それぞれ試行錯誤しながら実験を進行していました。
公開授業で実践をしたので、見学していた先生方や保護者の方からも感想をいただきました。「子どもたち自身で課題を解こうとしており、これまでの授業の風景とはまったく違う」「プログラミングに苦手意識があったが、子どもたちが主体となるため、自分でも授業ができそうだ」「子どもたちの話し合いの内容が濃く、驚いた」などの声が寄せられました。
国語、英語、総合学習の事例も!
『先生のための小学校プログラミング教育がよくわかる本』では、上記で紹介した以外の算数と理科、そして国語や英語、総合学習でプログラミング教育を取り入れた授業を紹介しています。授業の進め方や準備物だけでなく、先生たちの声も取り上げていますので、まずは授業計画を作ってみたい方にも、これから先行して実践してみたい方にも参考になるのではないでしょうか。
学校で使える「小学校向けプログラミング教育ポスター」もプレゼントしていますので、本書が気になる方はぜひお買い求めください。