loundraw
イラストレーターとして10代にして商業デビューを果たす。以降、住野よる『君の膵臓をたべたい』(双葉社)、佐野徹夜『君は月夜に光り輝く』( AMW )、東野圭吾『恋のゴンドラ』(実業之日本社)など、さまざまな小説作品の装画を担当。透明感、空気感のある色彩と、被写界深度を用いた緻密な空間設計を魅力とし、担当装画の書籍累計販売数は200万部を超える。また、声優・下野紘、雨宮天らが参加した卒業制作オリジナルアニメーション『夢が覚めるまで』では、監督・脚本・演出・レイアウト・原画・動画と制作のすべてを手がけたほか、漫画家として『あおぞらとくもりぞら』の執筆、アーティスト集団・CHRONICLE での音楽活動など多岐にわたる。2017年9月に自身初の個展『夜明けより前の君へ』を開催。
URL │ loundrawblr.tumblr.com
有馬トモユキ
デザイナー。1985年長崎県生まれ。複数社を経て日本デザインセンターに参加。音楽レーベル「GEOGRAPHIC 」クリエイティブディレクター、タイポグラフィ教育機関「朗文堂新宿私塾」講師。コンピューティングとタイポグラフィを軸として、グラフィック、Web、UI 等複数の領域におけるデザインとコンサルティングに従事している。おもな仕事に「ハヤカワSF シリーズ J コレクション」装丁デザイン、TV アニメ「アルドノア・ゼロ」「ブブキ・ブランキ」アートワーク、NHK スペシャル「神の領域を走る」アートディレクション、さくらインターネット株式会社VI 計画などがある。
URL │ tatsdesign.com
これまでの自分にはなかった新しい絵の表現が生み出せそう
――loundrawさんにカバーイラストを依頼させていただきましたが、実は昨年の『ILLUSTRATION 2017』の制作段階で、次年度のカバーはぜひloundrawさんに描いていただきたいと考えていました。今回それを実現することができて嬉しく思っています。
loundraw( 以下、lo)「ILLUSTRATION シリーズには2014年から継続して参加させていただいていたので、今回カバーイラストのお話をいただいたときは僕も非常に嬉しかったです。2014年当時から今に至るまでを見ていただけていることも含めて、期待に応えなければいけないなと思いました」
有馬トモユキ(以下、有馬)「自分はシリーズ当初から装丁を担当させていただていますが、年々移り変わっていく掲載作家陣や歴代のカバーイラストを手がけた作家など、今に至るまでの流れを間近で見てきているだけに、今回loundrawさんが描くと知らされたときは感慨深いものがありました。近年のご活躍ぶりは目覚ましいものがありますよね」
――カバーイラストを描くにあたって、まずどのようなところから取りかかられましたか?
lo「過去のカバーイラストの流れから、今回も背景なしでキャラクターイラストのみということになるのかなと思っていたのですが、実際にいただいたオーダーは背景も描いてほしいということでした。それであれば、キャラクター単体で印象付ける絵ではなく、背景も含めて全体で印象付けるようなものにしようと思い、絵の構想に取りかかりました。キャラクター以外の背景も含めた絵というのが自分本来の持ち味だと思っているので、オーダーの段階で力を発揮できるポイントを押さえていただけたのはありがたかったですね」
――その後、最初にいただいたラフはそれぞれ印象が異なる4つの案をいただきました。
lo「ラフを提出する際、それぞれの案についての意図をお伝えさせていただきました。この図録の大きな特徴である『世界観の多様性』という部分の表現は、海辺の足跡や写真、プリズムや虹色など、各案によって異なるアプローチを取ってみました。どの案がセレクトされてももちろん良かったのですが、中でも『夜明けの歩道橋』を描いた案は、これまでの自分にはなかった新しい絵の表現が生み出せそうだなと感じていました」
――それぞれの案についての意図をお聞きしたうえで、デザイナーの有馬さんにも意見を伺いました。
有馬「どの案を選ぶかについては熟考しましたね。そうして辿り着いた結論が、カバーイラストを依頼した作家にとって、これが最新の自分だと言えるような絵に挑戦してもらいたい、新境地を見せてほしいという意見で一致しました」
『人の顔』というのは、絵のキャッチーさを象徴する最たる要素のひとつ
――制作側の立場から見て、カバーイラストとして安心感を得られる、ある意味で無難とも言えるような選択肢に進む道もあるにはあったと思うのですが、この図録を制作するうえで心がけている姿勢としても、新たなことに挑戦してほしいと思いました。
lo「そこに賭けていただけた、背中を押していただけたのは描き手としてすごく嬉しかったですし、その判断自体も制作のうえでの刺激になりました。必ず良い絵にするぞという気持ちが一層引き締まった気がします」
――そのような経緯で、『夜明けの歩道橋』を描いた案をベースに進めていただくことになりましたが、同時に要望も伝えさせていただきました。
lo「そうですね。現状のラフをそのまま清書して仕上げるのでは、カバーとして少し弱いのではないかというご相談を受けました。カバーとしてより印象強いものにするために、全体の構図や人物のサイズ感など、もう一度アイデアを練ってみてほしいと」
――その要望を踏まえて2度目に提出いただいたラフは、『夜明けのビルの屋上』というようなシチュエーションに変わりましたね。これで一気にスケールが大きくなったように感じました。
有馬「都会のビル群を見おろすような景観に変わったことで、広がりを感じさせる絵になりましたね。最初のラフと比べて、カバーイラストとしての引きの強さが高まったように思います」
lo「スケールを大きく見せる演出を取り入れたことで、自分でも手応えを感じました。絵としても良い方向に行ったように思います」
――修正いただいた案を拝見して、この方向で行こうという気持ちが固まりましたが、やはり『顔が見えにくい逆光』というシチュエーションは、選ぶ立場として正直勇気のいる選択ではありました。『人の顔』というのは、絵のキャッチーさを象徴する最たる要素のひとつですから。
lo「今回の逆光とは違いますが、これまで手がけてきた装画の仕事の中でも、冒険的・挑戦的な案を出すことはあったんです。ただ、ほとんどの場合、選ばれるのは安心感を感じられる案ですね。安心感を感じられる案というのは、過去の自分の作品の延長線上にあるような絵といいますか、『loundrawといえばこういう感じ』というイメージの案です。選ぶ立場としては、完成のイメージが見えやすいもののほうが、やはり安心感はありますよね……」
有馬「逆光のシチュエーションは描く立場のloundrawさんにとっても挑戦ですし、選ぶ立場にある編集サイドにとっても挑戦だなと思いました」
細かなところまでこだわり抜いて描いた
――そのような経緯で決まったシチュエーションの部分以外に、今回はloundrawさんにとってさまざまな挑戦をされたとのことですが、具体的に話を聞かせてください。
lo「写真の被写界深度であったり、光の射し込みを表現するレンズフレアであったり、『光』というのは自分を象徴する表現であり、武器だと思っています。そういったわかりやすく派手な光のエフェクトを、これまではPhotoshopのフィルターや描画モードなどのツールを利用して表現してきました。それは自分の表現における『必殺技』のようなものなのですが、今回はそれを封印しました。光の表現は中心にありつつ、それをデジタルツールに頼って表現するのではなく、ブラシの手塗りで地道に描いていきました。描画モードなどの機能も一部では用いましたが、本当に最低限の調整レベルですね。手法としてはプリミティブで、ほとんどアナログの手描き感覚でした」
――フィルターや描画モードといったデジタルツールならではの効果は、便利で劇的な印象を演出できる半面、それを使えば誰にでも同じような表現ができてしまうという画一的な面もあるでしょうね。
lo「自分が次のステップに進むためにも、今回の試みは非常に意義のあることだったと感じています。その大きな機会を与えていただけたことに感謝しています。光の表現だけでなく、ビル群や雲の表現など、細かなところまでこだわり抜いて描いたので、ぜひじっくり見ていただきたいですね」
――光の表現や背景と並ぶメインモチーフである、今回のキャラクターデザインについて聞かせてください。
lo「既にアイコンとして確立されているキャラクターを自分なりにゼロからデザインするという経験も、これまでの仕事ではほとんどなかったので、これも挑戦のひとつでした。キャラクターデザインとしては、イラストレーターの中にある童心のようなものや、自分の殻的なニュアンスを表現するモチーフとして黄色いレインコートを選びました。絵の中には描いていないですが、足元は裸足という設定になっています。このほか、キャラクターの周囲を舞う写真や、大小さまざまな建物が立ち並ぶ景観で、図録の特徴である多様性の部分を表現しました」
紙の本ならではの『モノ』として所有する価値
――完成したloundrawさんのイラストを受けて、デザイン担当の有馬さんはどういったことに取りかかられましたか?
有馬「絵に沿ったデザインをするというのは毎回意識していることですが、同時に今の時代のトレンド・空気を感じられるようなルックを心がけるようにしました。完成したloundrawさんのイラストを見た時点で、タイトルのタイポグラフィは確信的に白でいこうと思いました」
――カバーのデザイン案も4つ出していただきましたね。
有馬「そうですね。そのうち2つは、これまでのシリーズを踏襲したイメージで、残りの2つは、情緒的な絵の雰囲気に寄せたイメージでした。後者をより具体的に言うと、シャープなセリフ体をタイトルのタイポグラフィとして採用した案です。ブランドイメージの刷新を検討するタイミングがきたときに備えた、選択肢の提案という意味合いもあり、ちょうど昨年版あたりから大きく2つの方向性を提案させていただいています」
――結果としては、タイトルの書体を変えず、これまでのシリーズを踏襲する形の案を選ばせていただきました。
有馬「認知が進んできているブランドであれば、特別な理由や意図がない限り、奇を衒うようなアプローチをする必要はありませんよね。ブランドイメージをより固めていく形で、案を決定していただきました。加工的な部分の細かい話になりますが、今回はタイトル部分にUVグロスニスをかけているので、マット/グロス質感のコントラストがある仕様になっています。紙の本ならではの『モノ』として所有する価値を、少しでも感じていただけたら嬉しいですね」
lo「有馬さんとお仕事をご一緒させていただくのはこれが2度目になるのですが、絵を大事に扱ってくれつつ、迷いのないデザインをしてくださるので嬉しく思っています。今回のデザインも、明快で格好良いなと感じました。ぜひ多くの方に手に取っていただきたいですね」
ILLUSTRATION 2018
編集:平泉康児
発売日:2017年12月13日(水)
価格:3,024円(税込)
本書について
多種多様なポップカルチャーから現代美術、刻々と変化するネットカルチャーまで、世界が注目する日本独自の多彩なイラストシーンを横断した、実力派作家150名による豪華競演です。『今』をアーカイブしたイラストレーションの図録として、本書をさまざまな用途にお役立てください。