本記事は『ITエンジニアのための【業務知識】がわかる本 第5版』から一部を転載し、掲載にあたって編集したものです。
はじめに
今回、無事4年半ぶりの改訂をすることができました。2004(平成16)年に初版を刊行してから14年、改訂に当たって改めて、初版、第2版、第3版、第4版を見直してみましたが、かなり密度が高くなっています。さすがに4年半ぶりの改訂ですからね。具体的には次のような点を加筆しています。
- GDPを548兆円まで向上させた国の施策(未来投資戦略、Society5.0、働き方改革など)
- 収益認識基準(第29号)、IFRS第15号などによる収益認識基準の動向
- 2019年10月1日からの消費税増税と軽減税率の適用
- 2018年7月公布の働き方改革関連法案とそこに至るまでの労働関連法の改正
- 情報戦略立案プロセスを、ITを活用した事業戦略の立案に変更
- デジタルトランスフォーメーションとデジタルマーケティングの追加
- この4年半の間に変化があった部分
また、第4版まで“IT”と“業務知識”を分けて書いていましたが、もはや“IT”と“業務”を分けて考えることは難しいと判断して一本化しました。これにより冗長だった業務内容が、より分かりやすくなったと考えています。
そして今回の目玉です。なんと、各テーマごとのWebページを翔泳社に用意してもらいました。紙面とWebの連動です。紙の書籍をお使いの方は、スマホにQRコードを読ませることでテーマごとのページをチェックすることができます。電子版をお使いの方は、そのままURLリンクで同様にチェックすることができます。次の第6版が出るか、市販の在庫がなくなり第6版の改訂が中止になるかしない限り、そのWebサイトで最新情報を提供することができます。参考になる関連サイトや推奨書籍、それに今回、紙面の制約から掲載をカットせざるを得なかった記事などをアップする予定です。末永くお付き合いいただければ幸いです。
最後になりますが、本書の発刊にあたり“いいものを作ろう”と“今回も”ギリギリまで粘っていただいた上で、企画・編集面で多大なるご尽力をいただいた翔泳社の方々にお礼申し上げます。ありがとうございました。
平成30年11月
著者 ITのプロ46 代表 三好康之
本書の効能
我々の役割を考えた時、いくら心の優しいエンジニアで、顧客のことが大好きで、いくら良心的に顧客のことを考えていても、知識がなければ…それだけで“ダメ”なんですよね。
「無知は罪」、「顧客が大切?言葉では何とでも言える」
顧客のことが大好きで大切に思うなら、迷惑をかけないように勉強を始めましょう。それが顧客に対する誠意の証。本書はそのための一助になります。他にも様々な効能があります。
その1:使える知識にする
本書は、業務知識を“使える知識”として習得するのに最適です。というのも、構成を考える段階から“使える業務知識”になることを最優先して作成してきたからです。最も注意を払ったのは構成面。具体的には、「どのようにして体系化するか?」をじっくりと考え、「なぜその業務が必要なのか?」を知ってもらえるように意識しました。パッと見ではわからない…本当に地味な工夫で伝わりにくいのですが、本書で学んだ知識を仕事で使えるようになる確率は“高い”と自負しています。ちなみに…筆者は、使える知識というのはこんな感じで考えています。
筆者の考える“使える知識”の一例
- 業務担当者だけではなく、役員や経営者が会って話を聞いてくれる
- 顧客に業務改善を含むシステム提案を受け入れてもらう
- 部下や後輩から業務知識を教えてほしいと懇願される
- 自分の持つ知識水準が「相手から期待され、信頼されるレベル」にある
- 自分の知識に自信をもっている
そして、そのために必要なのが、知識を体系化して記憶させることと、業務の存在理由を知ることだと考えています。
知識を体系化して記憶する
インターネットが普及して、検索スキルやKnow Where(どこにその情報があるのかを知っていること)が重要だとか、Know Who(誰が知っているのかを知っていること)が重要だとか言われていますが、いやいやそんなことはありません。知識は自分の頭の中にあるからこそ使えるんです。Know Here(知識は、ここ(頭の中))。だから、信頼を得られるし、オシャレなんですよね。そのためには、まずは“知識を記憶する”ことが必要になります。
しかし、いくら知識の量が多くても、それすなわち“使える知識”ということにはなりません。自分で会話を組み立て、最適な粒度の知識を、最適なタイミング…最適な表現方法で言葉に載せるには、「知識が体系化されている状態」が不可欠なのです。体系化されている状態というのは、図のように階層化・構造化して覚えている状態のこと。上位に行くほど抽象化され、下位に行くほど具体的で詳細になります。また、上位の記憶の強さによって、下位の理解度も影響を受けるという特徴もあります。
いずれにせよ、このように整理された状態にあるから、会話を制御できるんですよね。アナウンサーのように「あと10秒」とか、「1分間つないで」とか、「10分間で説明して」という要求にも的確に応えることができる-すなわち、相手の期待する量と質、粒度で話ができるようになる。相手に依存せず、自分で“話”を組み立てることもできる。その結果、提案や説得・交渉の時にも自信を持ってアウトプットできるようになるのです。筆者はそう考えています。
業務の存在理由を知る
そしてもうひとつが業務の存在理由を知ることです。先に説明した「知識を体系化して記憶する」というのはどんな知識であれ必要なことですが、こちらは、業務知識ならではの理由ですね。詳しい話は、後述する「業務知識の学び方」のところに書いているので、そちらを参照してください。
その2:資格を持ったITエンジニアになる!~資格取得のために活用する!~
本書は、ITエンジニアとしてさらなるキャリアアップを図るための資格取得に有効です。対象としているのは、ITエンジニアに人気の中小企業診断士と情報処理技術者試験、ITコーディネータ、販売士など。いずれも筆者自身が受験する過程や試験対策を行う中で、あるいは、過去問題を十分に分析した中で、試験合格に必要になると判断したキーワードを中心に編纂したからです。特に情報処理技術者試験のストラテジ系知識については、この1冊で十分です。どの試験対策本よりも網羅的で詳しく説明している自負があります。
ITストラテジストに必要な経営知識(経営戦略、情報戦略、マーケティング等)に関しては「第1章 会社経営」に、なんと78ページも割いていますからね。近くに、ITストラテジスト試験の合格者がいれば聞いてみてください。本書の有益性がはっきりするはずです。
情報処理技術者試験の場合は、他にも、基本情報技術者、応用情報技術者、高度系午前I、システムアーキテクトの午後I、午後II、データベーススペシャリスト試験の午後IIなどにも有効です。本書でしっかりと勉強すれば、情報処理技術者試験が得意になるのは間違いありません。もちろん、経営の知識が必要な中小企業診断士やITコーディネータ、販売士などにも効果的です。
その3:SEを目指す学生さんや若手プログラマの方々に
本書は、SEを目指している学生さんや若手プログラマの方々にとって、とても有益です。SEになると要件定義や外部設計が主要業務になり、顧客とのコミュニケーションの質が…量も…大きく変わります。業務に関する話題が中心になるとともに、システム開発のプロとして、自分が会話を組み立てないといけなくなるからです。
そうした将来に備え、本書は、SEになった時に「自分が会話を組み立てる」ことができることを目標に据えて作成しました。具体的には、知識を体系化して整理しながら覚えられるように配慮するとともに、自信が持てるだけの“量”を詰め込んだのです。「キーワードをできる限り多く詰め込む」-それが本書の最大のコンセプト。
なので、これからSEを目指す皆さん!ぜひ、本書を使って勉強してみてください。あるいは、授業や研修を企画している立場の皆さん!ぜひ、本書を使ったカリキュラムを検討してみてください。本書を使って学習すれば、早い段階で基礎が体系的に身に付き、業務知識の全体像が俯瞰できるようになるはずです。そしてそうなれば、その後現場で見聞きすること全てが学びの対象になり、吸収力も全然変わってくるでしょう。自分でも気付かないうちに業務知識が自分の中に蓄積していくので、楽に成長できること間違いありません。
その4:コンサルタントを目指すSEさんに
本書は、さらなるステップアップを目指す現役バリバリのSEさんにとっても有益です。本書では、先に説明した通り「少しでも多くのキーワードを入れたい」という思いから、SEさんにとって最低限必要だと思われる業務知識を体系化して詰め込みました。それにより、業務知識の全体像を俯瞰できるというメリットはあると考えていますが、その一方で、どうしてもひとつひとつの用語の説明は“薄く”なっています。
その点については、今の時代だから「キーワードさえわかっていれば、必要に応じてネットで容易に検索できる」と考えているのですが、特に有益で信頼性の高いサイトについては参照先を明記するように心がけました。検索の手間を省くとともに、ミスリードされないようにと考えてのことです。加えて、本書を読み終えた後の“知識の深耕”も大切なことだと考えて、各章の章末に「Professional SE になるためのNext Step」を付けました。
そこでは今後学習を継続するための方向性や方法(有益な書籍やWebサイト)を紹介しています。もうすでに十分な業務知識をお持ちの人なら、さくっと知識の整理(体系化)だけして、早い段階でNext Stepへと進んでいただけるのではないでしょうか。もちろん、その後も本書を「業務知識のINDEX」として活用していただけると考えています。だから、読み終えても捨てたり、オークションに出したりしないでくださいね(笑)。
業務知識の学び方
業務知識を学習するうえで、実務で使える知識としてストックしていくためには、意識しないといけないことが二つあります。
ひとつは「モチベーション・コントロールが難しい」ということ。それをずっと意識しておいた方がいいでしょう。多くの知識は、明日必ず必要というものでもなく…「将来、必要になるかもしれないし、ならないかもしれない」…そんな感じのものです。よーく考えれば、だからこそストレスなく勉強できるし、必要になった時にあたふたしなくていいということなので、それ自体がメリットなのですが、ことモチベーションとなるとどうしても高まりません。しかも面白くない。本書を読んでいても全く笑えない(苦笑)。なので、資格取得を目標にするなどセルフコントロールが必要になります。
それともうひとつ。「なぜ、その業務が必要なのか」を考えながら学ぶこと…これが重要な視点になります。会社で行われている業務には、それぞれに存在理由があります。その存在理由に着目して知識を習得することで…はじめて“顧客と話をする必要がある事とない事”、“聞いていいことと悪いこと”、“提案できることとできないこと”、“業務改善か、カスタマイズか”などが判別できるようになります。また、勉強する上でも“何を暗記すればいいのか”、“どこが理解だけでいいのか”もわかるでしょう。
そこで本書では、業務知識を、その存在理由の違いに応じて4つのレベルに分けて説明することにしました。それがカバーにも書いてある“4つのビジネスルール”です。各レベルの詳細は次ページにまとめているので、本格的に業務知識の学習を始める前に、まずはそれぞれの違いについて目を通しておいてください。
なお、この4つのビジネスルールは特に標準化されているものではありません。筆者独自の視点です。その点だけは理解しておいてくださいね。
第1のビジネスルール:法律
業務の中には、“法律で決まっているからそれに従って実施している”部分があります。まさにビジネスの“ルール”となる部分です。当然ですが…その部分に関しては“法律”を勉強しなければなりません。顧客がITエンジニアに期待するのも「事前に勉強しておいてほしい。当たり前の知識なので、必要最小限の話しかしたくない。」という感じでしょうか。独学で勉強できるところでもあるので、顧客に迷惑がかからないようにしっかりと準備しておきたいところですね。
第2のビジネスルール:ISO規格/JIS規格/その他基準
法律ほど強制力はありませんが、推奨されるからやっている(あるいは、やっていない)業務もあります。各種規格で決められているものです。企業が、その“ルール”を順守するかどうかは任意ですが、ITエンジニアは常にその可能性を考えていた方がいいでしょう。ここも独学可能なところなので、事前に準備しておきたいところだといえます。特に、顧客が知らない場合は、採用されるしないに関わらず、提案しておいた方がいいところでもあります。
第3のビジネスルール:業界慣習/業界標準/事実上標準
3つ目のビジネスルールは、“昔ながらの慣習”として行われている業務です。企業は、そのルールに合わせる活動をしてもいいし、そのルールに一石を投じ改革していっても良い部分です。また、レベル1やレベル2が汎用的な知識であるのに対し、このレベルは“ノウハウ”とか“経験値”に近づきます。顧客が「○○業界の経験者に担当してほしい」と期待する部分でもあります。経験値としてストックしていきたいところですね。
第4のビジネスルール:当該企業の創意工夫部分
そして最後が、企業に自由度が与えられている部分。各企業は自由に活動できるわけですから創意工夫し、どうにかして競合他社よりも効率よく効果的にやっていきたいと考えている部分です。ある時点でのベストな方法はあったとしても、正解がないわけですから、各社試行錯誤しながら“ベストな方法”を探している部分だとも言えますね。
顧客がシステム化を考える時に、その企業の競争力の源泉になっていたらパッケージをカスタマイズしてでも残さないといけないと考え、弱い部分になっていたらシステム導入を契機に業務改善した方がいいと考えたりする部分です。いずれにせよ、システム化の提案などの会話で、(第1レベルから第3レベルではなく)この部分が最大の論点であれば、顧客から信頼されるでしょう。