新ビジネスが成功するか否かすべて書いてある――『日本のイノベーションのジレンマ』はなぜ必要だったのか|翔泳社の本

新ビジネスが成功するか否かすべて書いてある――『日本のイノベーションのジレンマ』はなぜ必要だったのか

2015/09/18 08:00

 クレイトン・クリステンセン著『イノベーションのジレンマ』から15年、その直弟子の玉田俊平太さんの手による『日本のイノベーションのジレンマ』が翔泳社から刊行されました。今回、一連の関連書籍の企画・編集を手がけてきた中村理さんに、刊行前から話題に上がっていた本書についてうかがいました。

日本のイノベーションのジレンマ

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日本のイノベーションのジレンマ
破壊的イノベーターになるための7つのステップ

著者:玉田俊平太
出版社:翔泳社
発売日:2015年9月11日(金)
定価:2,000円(税別)

目次

  • はじめに
  • 第I部 破壊的イノベーションとは何か
  • 第II部 なぜ、日本の優良企業が破壊されてしまうのか
  • 第III部 破壊的イノベーターになるための七つのステップ
  • おわりに「日本のイノベーションのジレンマ」を超えて

 日本ではなぜ欧米のようにイノベーションが次々と起こらないのでしょうか。日本の企業が生み出した近年の製品やサービスで、世界的に普及しているものをどれくらい思いつきますか?

 かつてはそうではありませんでした。ソニーのトランジスタラジオ、任天堂のファミコンなど、数多くの企業がそれまで流通していた製品に対して破壊的イノベーションを起こし、新しい製品を世界に届けていました。ところがいつしか、そうした企業も既存製品の高機能化、すなわち持続的イノベーションばかりに取り組み、欧米企業やベンチャーの破壊的イノベーションに太刀打ちできなくなってきています。

 クレイトン・クリステンセン教授が書いた『イノベーションのジレンマ』(翔泳社、2000年)は、破壊的イノベーションを理論的に解説したビジネス書の古典ともいうべきロングセラーです(増補版は2001年)。

 しかし、いまだ破壊的イノベーションに対する誤解は絶えないといいます。そこで翔泳社が9月11日(金)に刊行したのが、クリステンセン教授の直弟子、玉田俊平太さんによる『日本のイノベーションのジレンマ 破壊的イノベーターになるための7つのステップ』です。

 今回、本書と『イノベーションのジレンマ』シリーズを企画・編集されてきた株式会社イノウの中村理さんに、制作のきっかけや読みどころについてうかがいました。

『日本のイノベーションのジレンマ』はなぜ必要だったのか

 始まりとなった『イノベーションのジレンマ』は原著が1997年に刊行され、邦訳は2000年に刊行されました。この中でクリステンセン教授は、イノベーションを分類し、かつて高みを極めた企業がなぜいま落日の憂き目に合っているのかを、破壊的イノベーションという概念を中心に理論立てて解説しました。

 その後、破壊的イノベーションを実践する立場から『イノベーションへの解』、続けて具体的な解決方法を説明した『イノベーションへの解 実践編』を刊行しました。そして2013年の『イノベーションの最終解』へと連なります。

 本書『日本のイノベーションのジレンマ』はこれらを受けて刊行されることになったのですが、なぜいまその必要があったのかでしょうか。

「『イノベーションのジレンマ』はロングセラーになっていて、非常に評価が高い本です。正しい方法でビジネスをして成功してきた企業がその正しいマネジメントゆえに潰れてしまう、という問題提起が非常に斬新だったのではないでしょうか。

 ただ、『イノベーションのジレンマ』は問題提起としては充分ですが、その解決方法の提示という意味では少し記述が足りないと感じていました。クリステンセン教授自身も、まだ整理しきれていなかったのです。そこで、現場のビジネスで役立つ解決策を体系的に提示したのが『イノベーションへの解』です。さらにその解決方法を分かりやすい道具として示したのが『イノベーションへの解 実践編』ですね。

 破壊的イノベーションのマネジメントを身につけるには、この3冊を読んでもらいたい。でも、すべてを読みきるのはなかなか辛い。積読になっている方もいるかもしれません。ですので、これまでシリーズの監修でお世話になっていた玉田さんと相談し、『ジレンマ』から『実践編』まで、それと玉田さんがクリステンセン教授に直接教わっている最新理論も含めて、1冊で分かるお得な本を作ることにしたのです。本書では、破壊的イノベーションに関する現状分析、問題提起、解決方法、そして破壊的イノベーターになるための方法論までがセットになっています。

『イノベーションのジレンマ』はいろいろな読み方ができる本であり、さまざまな方にも引用されています。ところが、「これは破壊的イノベーションである」という引用が実は間違っている、ことが多いのです。つまり、意外と多くの方が理論を誤って理解しているのです」

いまなお誤解される破壊的イノベーションとは

 中村さんのお話にあったように、『イノベーションのジレンマ』の日本版刊行から15年が経ついまも、破壊的イノベーションは誤解されていることがあります。クリステンセン教授は、イノベーションを持続的イノベーションと破壊的イノベーションに分けました。一方で、イノベーションを画期的と漸進的に分ける分類法もあります。そして、画期的イノベーションを破壊的イノベーションと理解している方が多いそうです。

「破壊的という言葉が誤解を生みやすいのかもしれません。画期的イノベーションを破壊的イノベーションだと考える誤解が非常に多いですね。例えば、ハイブリッド車を破壊的イノベーションだと思っている方がいます。ガソリン車の市場を破壊して、ガソリン車を駆逐してしまうだろう、という論調です。

 ですが、ハイブリッド車はあくまで持続的イノベーションです。ハイブリッド車はガソリン車の顧客に評価され、燃費という顧客の重視する性能が向上している製品ですから。それに対して、連続走行距離が短く、ガソリン車の顧客からの評価が低い電気自動車は破壊的イノベーションと言えますね」

 本書でも改めて紹介されていますが、破壊的イノベーションは「既存の主要顧客には性能が低すぎて魅力的に映らないが、新しい顧客やそれほど要求が厳しくない顧客にアピールする、シンプルで使い勝手が良く、安上がりな製品・サービスをもたらす」イノベーションです。

 これに対して、持続的イノベーションは既存顧客に向けて既存製品の性能を向上させていくイノベーションです。性能を徐々に向上させる漸進的なイノベーションと、一気に向上させる画期的なイノベーションというのは、まったく別の分類方法なのです。

新サービスはニッチ市場を狙え

『イノベーションのジレンマ』がアメリカで刊行されたときは、すぐに大きな反響があったそうです。特にベンチャーキャピタルを口説き落としたい人にとって、自分のビジネスがいかに破壊的イノベーションかと説明するためのツールになったとか。

 このことに象徴されるように、破壊的イノベーションはベンチャーが起こしやすいと中村さんはおっしゃいます。どういうことなのでしょうか。

破壊的イノベーションは、既存市場で強みを持っていない企業から生まれやすいのだと思います。特にベンチャーには、資金も人材も物資も不足しているので、シンプルで使い勝手がよく、安上がりな製品やサービスしか作れません。だからこそ、すでに高い技術や優れた製品・サービスを持つ企業のいる既存市場ではなく、そんな製品やサービスでも受け入れてくれる新たな市場を開拓するのです。逆に大企業は、売上を支える既存市場があるために、その顧客が求めていない破壊的イノベーションを起こしづらい。これが、ジレンマなのです。

 その意味では、これからアジアの新興国の企業から破壊的イノベーションが次々生まれそうな予感はしますね。ソフトバンクのような大企業がアジアの新興企業を買収しているのは正しい戦略なのかもしれません。

 本書はベンチャーのように、これから新しいビジネスをやりたいと考えている方には特におすすめです。なぜなら、やりたいなと思っているアイデアを実際にビジネスとして成功させられるのか、サービスに落とし込むまでに何をすべきなのかが明快に書かれているからです。

 あるアイデアが破壊的イノベーションを起こせるかを判断するためのテストも掲載されています。「初年度に狙う市場はマスよりもニッチなほうがいい」とか、「顧客が用事をもっと安く・うまく片づけられることよりも、もっと簡単に片づけられるようになるかが重要」とか、一見すると直感に反するような基準があるのです。イノベーションを成功させるためのヒントはすべてここに書かれています!

中村理さん
中村理さん:株式会社イノウ

メンタルモデル・イノベーションのすすめ

 では、ジレンマに陥っていてニッチ市場にも向かえない企業は何もできないのでしょうか。本書の著者・玉田さんが強調するのが、日本企業はもっとメンタルモデル・イノベーションを起こすべきだということです。これは、製品は従来と同じでも、顧客の製品に対する認識が変化することで、消費した際に感じる価値が増えるタイプのイノベーションを指します。

 メンタルモデル・イノベーションの例として大塚製薬のポカリスエットが挙げられています。ポカリスエットをスポーツのあとに飲むものとして売り出していましたが、スポーツ人口が頭打ちになれば売上が増えることはありません。そこで大塚製薬は、二日酔いのときに飲んでも役に立つというプロモーションを打ちました。結果、飲用シーン=市場が拡大したことで、売上も伸びたのです。

 玉田さんは日経デジタルオンラインで本書を下地にした「しゅんぺいた博士と学ぶイノベーションの兵法」を連載されていますので、よければこちらもご覧いただければと思います。

日本のイノベーションのジレンマを乗り越えて

 ここまで『日本のイノベーションのジレンマ』の制作のきっかけから読みどころまでご紹介してきましたが、皆さんの会社でもジレンマに思い当たることに気がついたのではないでしょうか。

 本書や破壊的イノベーションについてもっと知りたい方は、玉田さんのインタビューをBiz/Zineでも公開しておりますので、こちらもお読みいただくといいかもしれません。もちろん、気になった方はぜひ本書を手に取ってみてください。

日本のイノベーションのジレンマ

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日本のイノベーションのジレンマ
破壊的イノベーターになるための7つのステップ

著者:玉田俊平太
出版社:翔泳社
発売日:2015年9月11日(金)
定価:2,000円(税別)

目次

  • はじめに
  • 第I部 破壊的イノベーションとは何か
  • 第II部 なぜ、日本の優良企業が破壊されてしまうのか
  • 第III部 破壊的イノベーターになるための七つのステップ
  • おわりに「日本のイノベーションのジレンマ」を超えて