アジャイル開発で欠かせない「ふりかえり」、チームを強くするための3つの段階とは|翔泳社の本

アジャイル開発で欠かせない「ふりかえり」、チームを強くするための3つの段階とは

2021/02/24 07:00

 スクラムなどアジャイル開発において重要な「ふりかえり」。チームを成長させるために不可欠にもかかわらず、うまい方法がわからない、形骸化している、といった課題を感じている方は少なくないはず。今回は『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック』(翔泳社)より、ふりかえりの基本を解説した「Chapter01 ふりかえりって何?」を紹介します。

本記事は『アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック 始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット』の「Chapter01 ふりかえりって何?」から抜粋したものです。掲載にあたり一部を編集しています。

ふりかえりとは?

 ふりかえりは、チーム全員で立ち止まり、チームがより良いやり方を見つけるために話し合いをして、チームの行動を少しずつ変えていく活動です(図1.1)。毎週や隔週など定期的に、毎回同じ時間にチーム全員で集まって行います。チームにとって今より良いやり方がないかを話し合い、やり方をカイゼン※するためのアクションを検討していきます。

図1.1 ふりかえりの全体像
図1.1 ふりかえりの全体像
※トヨタ生産方式を源流とした、チームやプロセスの継続的な改善活動のこと。本書では、悪い部分だけでなく、良い部分を含めて、継続的に改善を加えていく活動のことをカイゼンと定義して使っていきます。

 ふりかえりは、以下の7つのステップに沿って行います。

ステップ ① ふりかえりの事前準備をする
ステップ ② ふりかえりの場を作る
ステップ ③ 出来事を思い出す
ステップ ④ アイデアを出し合う
ステップ ⑤ アクションを決める
ステップ ⑥ ふりかえりをカイゼンする
ステップ ⑦ アクションを実行する

 ふりかえりは、ホワイトボード、模造紙、付箋、ペン、ドットシールなどを使って進めていきます。ふりかえりの流れを簡単に見ていきましょう(ここでは簡潔に概要のみを説明します。詳細は第4章「ふりかえりの進め方」で取り上げます)。

①ふりかえりの事前準備をする

 ふりかえりを始める前に準備をします。今回のふりかえりの目的や構成を検討し、場所を用意し、道具を準備して、ふりかえりを始められるようにします。

②ふりかえりの場を作る

 チーム全員で集まってふりかえりを始めます。

 アイスブレイクを含めた場作りを行って、チーム全員がふりかえりに集中できるようにします。そして、ふりかえりのテーマを決定します。テーマは「チームの抱えている問題を共有したい」「開発~リリースまでのプロセスをカイゼンしたい」といった内容です。

 そして、テーマに沿ってどのようにふりかえりを進めていくか、限られた時間の中でどんな話し合いをするかを全員で決めます。

③出来事を思い出す

 ふりかえりの対象期間(1週間など)の中で「どんなことが起こったのか」「どんなことをしたか」「どんなふうに感じたのか」といった出来事や感情を思い出し、チームで共有します。たとえば、付箋に思い出した内容を書き、ホワイトボードに付箋を貼り付けながら共有していきます(図1.2)。

図1.2 思い出した内容を付箋に書いてホワイトボードに貼っていく
図1.2 思い出した内容を付箋に書いてホワイトボードに貼っていく

④アイデアを出し合う

 共有した出来事を土台に、テーマに沿ってアイデアを出し合います。「今より良いやり方はないか」「チームの行動をどのように変えていくか」といった内容を話し合い、意見を出していきます。

 たとえば、「新しいリモートワーク用ツールを使い始めたが、使い方がバラバラでうまく使いこなせていないので、新しい使い方のアイデアを考える」「チームでの情報共有がうまくいっておらず、手戻りが発生しているので、何ができるかアイデアを考える」といったテーマで、アイデアを検討していきます。こちらも、付箋で書いたアイデアをホワイトボードに貼り付けて共有します。

⑤アクションを決める

 アイデアの中からチームで実行するアクションを決め、具体化します。「いつ何をするのか」を付箋やホワイトボードにまとめます。

⑥ふりかえりをカイゼンする

 ふりかえりの最後に、ふりかえりそのものをより良い活動へとするためのアイデアを出し合います。時間を効果的に使うためのアイデアを考えたり、ふりかえりの中での意見交換の方法を話し合ったり、次回取り上げたいテーマ、次回使ってみたい手法など、さまざまな内容を話し合います。出したアイデアは次回のふりかえりで活用します。

 これで、ふりかえりは完了です。

⑦アクションを実行する

 次のふりかえりまでに、ふりかえりで決めたアクションを実行します。実行に移せた場合は、実行により起こった変化や結果を遅くとも次回のふりかえりまでに確認します。実行に移せなかった場合は、その理由を特定して、必要に応じてアクションを作り直します。

 これらの一連の流れを、毎回繰り返し行います。アクションがチームに変化をもたらしてくれますし、ふりかえりそのものをカイゼンしていけば、チームの変化のスピードをより加速させていくことができます。

 このようにふりかえりを実践し続けると、チームは「アジャイルなチーム」へと近づいていきます。それでは、チームの目指す姿の1つである「アジャイルなチーム」とは何でしょうか。次のページで詳しく見ていきましょう。

アジャイルなチーム

 アジャイル(Agile)は、「俊敏な」「素早い」といった意味を持つ英単語であり、それに紐づく価値観を表します。主にソフトウェア開発において、アジャイルな価値観に基づく「アジャイル開発」のフレームワークやプラクティスが取り入れられるようになってきています。

 アジャイル開発は、Kent Beckらによって2001年にアジャイルソフトウェア開発宣言として提唱されました。当時から今に至るまで、徐々にビジネスの変化は激しくなっていき、アジャイル開発の重要性が叫ばれ続けてきました。そして現在、日本の多くの企業でもアジャイル開発に関心を向け始めるようになっています。

 ここで、アジャイルソフトウェア開発宣言について簡単に触れておきます。まずは、アジャイルソフトウェア開発宣言を読んでみましょう(図1.3)。

図1.3 アジャイルソフトウェア開発宣
図1.3 アジャイルソフトウェア開発宣

 チームにとってまず着目すべきポイントは、「個人と対話を」「顧客との協調を」「変化への対応を」の部分です。チームにとってコミュニケーションは欠かせないものです。コミュニケーションは相互理解を促進し、チーム内外での繋がりを強くします。繋がりの強いチームは、チームに必要な情報を素早く集め、共有し、協調して動きやすい態勢が整っているため、変化が起こっても全員で柔軟に対応していくことができます。変化に強いチームは、チーム全員で学び続け、自分たちのコミュニケーション(対話)やコラボレーション(協調)を見直し、カイゼンし続けることによって生み出されていきます。

 そして、もう1つが「動くソフトウェアを」※の部分です。これは、実際に動作するプロダクトを使って仮説検証を繰り返すことです。プロダクトを継続的に作り出し、大きな価値を生み出していくためには、仮説検証の結果から学び、チームの価値を生み出すプロセスを見直し、カイゼンし続けることが必要不可欠です。

 本書では、「学び、カイゼンし続けることで、変化に柔軟に対応でき、大きな価値を生み出し続けられるチーム」をアジャイルなチームと呼び、チームが目指す姿の1つとして定義します。

 もし、あなたがアジャイル開発とは関係ない仕事をしていたとしても、上述の価値観や考え方を通じ、実現していこうとすることはできます。このアジャイルなチームへと変化するための一歩目を支えるのが「ふりかえり」です。

※ソフトウェア開発以外に従事している方は、仕事で作り上げている製品を想像してください。実際に使用できたり、顧客が使っている姿を想像できたりする、仮説検証可能な製品を「動くソフトウェア」と置き換えてお読みください。

ふりかえりの目的と段階

 本書で紹介する「ふりかえり」の目的は、チームを「アジャイルなチーム」へと近づけていくことです。ふりかえりを繰り返すことで、チームは以下のような特性を身に着けていきます。

  • コミュニケーションが活発になり、情報の透明性が高まる
  • 問題が迅速に共有され、チーム内で解決へと向かっていける
  • 価値を生み出すプロセスを自分たちで見直し、カイゼンしていける
  • チームに必要な知識を積極的に学び、吸収していける
  • 自律的に考え、行動できる

 ただし、漫然とふりかえりを行うだけでは、これらの特性を獲得するまでに長い時間が必要です。意識的に、効果的にふりかえりをしていけば、チームの変化のスピードを加速させることが可能です。

 ふりかえりには、チームを強くしていくための3つの段階が存在します。チームの状況や状態を把握したうえで、必要な段階に沿ったふりかえりを実践しましょう。

  1. 立ち止まる
  2. チームの成長を加速させる
  3. プロセスをカイゼンする

 これらは「ふりかえりを何のためにするのかという目的」でもあり、「ふりかえりで何をするのかという段階」でもあります(図1.4)。これらの目的と段階について、1つずつ説明していきます。

図1.4 ふりかえりの3つの目的と3つの段階
図1.4 ふりかえりの3つの目的と3つの段階

立ち止まる

 ふりかえりの1段階目は「立ち止まる」です。立ち止まることで、チームの変化のきっかけを作ります。

 チームは仕事を進めていく中でさまざまな問題や障害にぶつかります。問題が発生したとき、問題の渦中にいたまま解決に向かおうとすると、心と時間の余裕がないときほど、場当たり的な対応になりがちです。あわてて作業を行った結果、被害をより拡大させてしまうこともあります。

 また、余裕がないまま仕事を続けていると、チーム一人ひとりの視野は徐々に狭くなっていきます。周りのことを気にかけられなくなり、自分一人のことだけにのめり込んでいきます。そして、チーム内でのコミュニケーションが希薄になり、それが新たな問題を誘発させます。メンバーと会話していればすぐに解決できたはずの問題も、全貌が見えないまま抱え込んでしまい、一人でつらく長い時間を費やしてしまうこともあるでしょう。

 この流れを断ち切るために、一度立ち止まりましょう。作業から離れ、一呼吸おいて、「私たちが今何をすべきか」を考えます。この立ち止まる時間がふりかえりです。

 問題のある状況で、自ら立ち止まるのは難しいものです。だからこそ、定期的に立ち止まる時間をチームのプロセスの中に組み込んで習慣化します。自分たちが意識せずとも、強制的に立ち止まれる時間を設けます。チーム全員で定期的に、同じ曜日に、同じ時間に集まって話し合いをします。そうして、ふりかえりをチームのプロセスとして定着できたら、次の段階へと進みます。

チームの成長を加速させる

 チームが高いパフォーマンスを出すためには「コミュニケーション」と「コラボレーション」が欠かせません。高い成果を出し続けられるチームは、日々の仕事中にコミュニケーション(会話や議論や情報共有)とコラボレーション(協調作業)を自然に行っています。朝会やふりかえりなどの会議やイベントがあって初めて情報共有や協調作業をするのではなく、毎時・毎分・毎秒という高い頻度で必要十分なコミュニケーションとコラボレーションを取っています。このような状態へとチームを促進し、チームの成長を加速させることがふりかえりの2段階目であり、2つ目の目的です。

 この段階では、ふりかえりの時間をうまく使って、チームが互いのことを知り、より良いコミュニケーションとコラボレーションの方法はないかを模索します。

 たとえば、

  • チームの困ったことや問題を即時に共有するためにはどうしたら良いか
  • 要件の認識齟齬をなくすためにはどのような内容を伝えるといいか
  • 足りないスキルを補い合うために何ができるか

といった内容を検討します。また、互いのことをまだ十分にわかり合えていないのであれば、価値観を共有するワークを行うのも良いでしょう。互いの信頼関係を高めるため、感謝を伝え合ったり、抱えている不安を開示し合ったりするのも効果的です。

 ふりかえりの中で信頼関係を高める活動を織り交ぜることにより、ふりかえり以外の場でコミュニケーションとコラボレーションが発生するようになります。ふりかえり以外の場でも問題や悩みが自然と共有され、すぐに解決されるような状態が徐々に形成されていきます。チームがより前に進んでいくための土台作りとして、「チームの成長を加速させる」ことを意識してふりかえりの時間を有意義に使いましょう。こうして、バラバラだったチームが「チームとして」成長していけるようになります。

プロセスをカイゼンする

 「プロセス」はチームの動き方や開発の進め方といった、チームが価値を生み出す一連の活動を指します。そして、「カイゼン」はうまくいっていない部分や問題の解決に加え、うまくいっている部分をより強化していく活動を指します。

「プロセスのカイゼン」が「チームの成長を加速させる」よりも後の段階になっているのには理由があります。チームの信頼関係を十分に構築できていない状態でプロセスを変えようとすると、問題発生時に原因責任の追及が行われ、原因を作り出した人の心理的・肉体的負荷を高めることになりがちです。こうした行為はチームの分断を強めるほか、一度追及を受けた人は問題を隠すようになってしまいます。

 チームの信頼関係が高まっている状態であれば、「チームとしてのアクション」へと考え方がシフトしやすくなります。チームがメンバーのことをフォローし、チーム全員で前へ向かっていく意識を持ちましょう。そうすれば、チームのためを考えて、チームのパフォーマンスを上げるアクションを検討できるようになります。

 チームのプロセスを変えるときには、「チームが価値をどのように生み出しているのか」「仕事をどのように進めているのか」に着目してアイデアを出し合いながら、変更する箇所と内容を話し合っていきます。

 このとき、変えるプロセスは「小さく、少しずつ」が鉄則です。プロセス変更後にうまくいくかどうかは誰にもわかりません。どんなアクションが効果的かは、チームの特性や、チームの状況や状態によっても異なります。大きな変更はうまくいかなかったときの影響が大きく、戻すことも困難になります。小さな変更であればすぐに戻せます。そのため、「変える範囲は小さく」が重要です。

なぜ「ふりかえり」なのか

 本書では、「ふりかえり」というひらがなの表記を意図的に使っています。「振り返り」と表記しているWebサイトも多くあるので、そちらを見たことがある人も多いのではないでしょうか。

「振り返り」という言葉からは「後ろを振り向く」という動作を連想する人もいます。また、「振り返り」が「反省会」のような活動として認知され、定着してしまっている現場も多いのです。このイメージを払拭したい、という思いもあり、やわらかい印象を与えてくれるひらがなの表記を使っています。

 ふりかえりは、業界・業種・現場によってさまざまな呼び名で呼ばれています。カタカナや英語の呼び名もあり、専門的な難しい活動だと思われてしまうことも少なくありません。しかし、ふりかえりは誰でもできる活動だということを知っていただきたいという思いから、「ふりかえり」と表記するようにしています。

アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック

Amazon SEshop その他


アジャイルなチームをつくる ふりかえりガイドブック
始め方・ふりかえりの型・手法・マインドセット

著者:森一樹
発売日:2021年2月17日(水)
定価:2,600円+税

本書について

本書はふりかえりをはじめてもなかなかうまくいかず改善に結びつかないチームのために、目的、効果、流れや手法、マインドセットなどについて、架空の開発現場を舞台にしたマンガとともに一冊でわかりやすく解説します。