ゲーム開発をしてみたい、と思いながら、なかなか手をつけられずにいる方は多いかもしれません。ソフトにも触れたことのない方にとっては、3Dでキャラクターにモーションをつけるだけでも、数学の知識などプログラミング以外の知識や技術が必要だというイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、それもいまや昔の話。ゲーム開発ソフトは直感的な操作で制作できるように進歩し続けています。それどころか高機能にもかかわらず無料で利用できるものさえ出てきました。
そんな開発ソフトの一つに「Unity5」があります。ゲームメーカーなどのプロと同等の開発環境を誰でも無料で利用できるため(一部条件あり)、これまでのUnityユーザーだけでなく、ゲーム開発を行なう人々の注目を集めています。
翔泳社では、このUnity5でゲーム開発を始めたい方のために『ほんきで学ぶUnityゲーム開発入門 Unity5対応』を刊行しました。今回は著者の夏木雅規さんに、Unity5でゲーム開発することのメリットをうかがいました。
※本書はWindows版Unity5.1.3でサンプルを開発、本文を執筆しています。また、Unityは過去のバージョンをダウンロードすることができます。
早くからAndroidに対応していたUnity
――夏木さんはサイコロボット合同会社を2014年に設立されたそうですが、Unityで開発を手がけるようになったきっかけは何だったのでしょうか。
夏木:かつてコンピュータ関連の専門学校に通っていたんですが、しばらくはコンピュータとは関係のない仕事をしていました。そして29歳のときにシステム開発会社に入社しまして、そこで6年間、ウェブシステムの開発を行なってきました。で、在籍時にスマートフォンが普及し始めたんです。
仕事では主にAndroidのアプリ開発をしていたんですが、2012年にUnity3.5がリリースされましたよね。Unity3.5からAndroidに出力ができるようになり、これは面白いと思いました。そこからUnityを使い始めたんです。
そのあと、大阪でAndroidの勉強会を行なっていたとき、最近『ほんきで学ぶAndroidアプリ開発入門』を書かれた寺園聖文さんにお声がけいただいて、Unityの解説本を執筆することになりました。それが前著の『Unityで作るスマートフォン3Dゲーム開発講座 Unity4対応』です。その流れで本書を執筆させていただいています(注:なお本書は前著でたいへん好評だったゲームサンプルおよび内容を、Unity5向けにブラッシュアップした書籍です)。
知識ゼロでもUnity5を使いたい方へ
――本書はどういう方に向けたものなのでしょうか。
夏木:本書はUnity5と銘打っていますが、Unityの基本に忠実な解説本です。解説は新しい機能に限ったわけではなく、インストールから簡単なゲーム開発ができるようになるまで、つまり最新のUnityを使えるようになるための道筋を説明しています。
なので、ゲーム制作が初めて、これからちょっと始めてみようという方など、3Dのコンテンツ制作ソフトに慣れていない方向けですね。本当にUnityに「入門」しようとしている方が対象です。
ある程度ゲームを作っている方なら、Unityの公式サイトを読めばおおよそ分かると思いますので、本書では物足りないでしょう。そういう方はより応用的な解説本を読むのがいいと思います。
補足
公式サイトにはチュートリアルとビデオトレーニングが用意されています。
◆チュートリアル(日本語)
◆ビデオチュートリアル(英語)
◆上級者向けビデオトレーニング(英語)
――初めてゲーム開発をする方が本書を読んで、どこまでできるようになりますか?
夏木:Unityでできることはあまりにも膨大ですが、とりあえず操作手順を追うことで、Unityの概要が分かるような内容になっています。本書は主に3Dコンテンツに絞っていますので、初めて3Dコンテンツのツールを使う方、ゲームを作る方が、Unityでどういうことができるのかを掴んでもらえるのではないでしょうか。
基本的にはなんとなくプログラミングの基礎は分かっているけれど、ゲーム制作の知識はゼロという方が1本のゲームを作れるようになるまでをカバーしています。
これまでは、3D表現を使ったコンテンツを作ろうと思ったら、OpenGLやDirectX、3Dモデルのデータ構造、数学や物理の知識が必要でした。いまやそういった知識はUnityに内包されていますので、「こんなコンテンツを作りたい」と思ったらすぐに実現できてしまいます。特に数学の知識が必要ないというのはありがたいですね。
Unityの特徴はいままで蓄積されてきた情報の量と質
――Unityの特徴や長所はどこにあるのでしょうか。
夏木:Unityに近い開発ソフトとしてUnreal Engineがありますが、これらを用いた開発環境では、画面にグラフィックを出すために必要な苦労がまったく不要になります。コードを書く必要もありませんから、恐ろしく簡単になったといえます。加えて、AndroidやPC、ゲーム機など複数のプラットフォームに出力するのも容易です。
ほかの開発ソフトも高機能なので、Unityが突出している部分を挙げるのは難しいのですが、オブジェクトをドラッグ&ドロップで設置できたり、光の加減を直感的に調整できたりと、従来はそれだけで一苦労だった作業をシンプルにこなせるのがいいですね。Unreal Engineでも同じことはできるんですが、よりシンプルだと思ってもらえれば大丈夫です。
また、Unityはアセットストアの歴史が長いので、質と量ともに充実しています。無料の3Dモデルやテクスチャ、オーディオなど、これらアセットを組み合わせればゲームが作れてしまいます。
ちなみにですが、デザイナーや建築家がUnityを使うことも増えているそうです。ゲーム以外の業種の方が、3Dモデルの制作などいままで外注していた部分を自分でできるようになったんですね。
――ゲーム開発をしようと考えている方にとって、いまはどの開発ソフトにするかいくつか選択肢がありますが、Unityは第一に選んでいいソフトといえるのでしょうか。
夏木:そうですね。Unity4から5になって、4の頃に有料で提供されていた機能のほとんどが無料で利用できるようになりました。条件としては昨年の年間売上が10万ドル以下であったり、スプラッシュスクリーン(ゲーム起動時の画面)にUnityロゴが入ったりしますが、中小規模の開発会社や個人での開発であれば、Unityを選んで損はありません。
無料化で利用者層も広がりましたし、それ以前から大きなコミュニティがあるのでさまざまな情報が充実しています。Unity3.5の頃からAndroid、iPhone向けのゲーム開発に関する情報も蓄積されてきていますから、初めてゲーム開発をする方の開発環境としてはメリットが多いと思います。
Unreal Engine4も無料化しましたが、開発環境を構築するマシンにかなりのパワーが必要で、ゲーミングPC並のスペックがないと満足に動かしにくいところがあります。開発環境のコスト面ではUnityが優れているではないでしょうか。
Unity4以前はグラフィックに少し不安があり、映像面はUnreal Engineが強かった印象があるかもしれませんが、Unity5ではかなり向上しています。映像の質もいまやUnreal Engineに引けを取っていませんね。
ほかにもアドビやオートデスクのゲーム開発ソフトがありますが、激しい競争が起きればソフトの性能が上がり値段は下がっていくでしょうから、開発者としては望ましい状況です。
Unityで仕事の幅を広げていくための、最初のステップとして
――Unityが使えれば、将来的にもメリットがあるのでしょうか。
夏木:Unityの知識だけでゲーム業界で食べていける、ということにはならないと思いますが(笑)、いままでゲームに手を出していなかったプログラマはUnityを使うことで仕事の幅が広がりますし、デザイナーにとっても格段にスキルがアップしますから、仕事は増えるでしょう。
まだUnityに触ったことのない方はもちろんですが、もしUnityの公式マニュアルやドキュメントで詰まってしまった方がいれば、そこに至るまでの最初のステップとして読んでいただければと思います。