これからの人生設計、老後の不安、銀行預金では増えない資産の運用など、お金にまつわる問題は誰もが抱えているのではないでしょうか。株式取引は、こうした問題を少しでも解消していくことのできる資産運用法です。
翔泳社では1月13日(水)に、株価チャートの分析手法の一つ「テクニカル分析」を解説した『ど素人が読める株価チャートの本』を刊行しました。本書で解説されるテクニカル分析によって、初心者でも株価のトレンド(上下動)、天井と大底、売買タイミングを見極めることができるようになります。
著者はバブルの頃から国内外の経済を見通してきた国際テクニカルアナリストの福永博之さん。今回、知識こそが成功の源泉と語る福永さんに、株式取引で失敗しないためのテクニカル分析についてお話をうかがいました。
株式の最大の利点は流動性の高さ
――福永さんは長年アナリストとして活躍されていますが、いつ頃から金融の世界で仕事をされているのでしょうか。
福永:私が証券会社に入社したのはバブルの絶頂期、1988年です。資産運用が世間一般に広まり、花形になった時期ですね。もちろんそのあとのバブル崩壊も経験しました。現在は株式会社インベストトラストの代表取締役を務めており、肩書でいうと国際テクニカルアナリストです。
そうした経験の中で「投資とは何か」と考えてきたのですが、やはり個人であれ企業であれ、資産運用をするには株式や債券などの金融商品への投資が主なんです。例えば生命保険会社や損害保険会社なども、顧客から預かったお金を金融商品の売買によって運用しています。不動産は購入すると売るのがなかなか難しいですよね。
いまは若い方から年配の方まで、自分でお金を増やさなければならない時代になっていますが、株式や債券は流動性が高く、何十万、何百万円の単位で売買することができます。個人がこれからの生活プランを考えるとき、株式取引をうまく資産運用に組み入れていくことがますます重要になっていくのではないでしょうか。
いい会社の株式も、持ち続けていたら損をするかも
――投資の経験がない方にとって、株式取引は難しそうなイメージがあります。特にテクニカル分析はなおさらですが、業績のいい会社の株式を買うだけではダメなのでしょうか。
福永:株式取引の分析手法には大きく2種類あります。その一つが会社の業績を見るファンダメンタルズ分析です。業績や資産から、いい会社かどうかを判断する手法ですね。ファンダメンタルズ分析をやっている方の中には「いい会社の株式は中長期で持てば大丈夫だ」と言う方もいますが、私の経験上、それだけではダメなんです。というのは、もしバブルの頃にそういう会社の株式を買って持ち続けていたら、いまはむしろ含み損が増えているはずです。
実は、いまは日本企業の業績だけを見ると過去最高の状況です。しかし、平均株価は当時の半分です。1989年末に38,957円44銭くらいだったのが、現在は2万円弱なんです。企業の業績に比べて、株価は高値を更新していないんですね。となると、バブル崩壊後に株価が下がりきる前に売ったほうがよかったということです。
このように、売買のタイミングを資産運用に組み込まないと、結果的には株式を持っていた時間だけ無駄になりかねません。若い方は何十年と持ち続けてもいいんですが、将来高値になっているかどうかは分かりませんよね。そう考えると、時間を効率的に使って収益を上げていくのが重要です。
そのためのアプローチがもう一つの手法であるテクニカル分析です。ファンダメンタルズ分析だけだと、株価がどんどん上がっていくような時代でないと収益が出ません。今後そんな時代は来そうにないですから、売買タイミングを捉えて資産を運用するテクニカル分析を行なうしかないんです。
株価の方向、天井と大底、売買タイミングを見極める
――本書では三つのテクニカル分析(指標)が取り上げられていますが、これらを選ばれたのはなぜなのでしょうか。
福永:トレンド分析、フォーメーション分析、オシレーター分析ですね。投資で最も重要なのは、基本でもありますが「安いときに買って、高いときに売る」ことです。初心者は最安値のときと最高値のときが分かりませんし、天井や底でなくても株価は変動しますから、そういうときもタイミングよく売買をしなければなりません。株価の天井と大底、変動の仕方、そして売買タイミングを見極めるのにこの三つの指標が適しているんです。
まずトレンド分析ですが、これは株価の方向を教えてくれるテクニカル指標です。方向は上がるか下がるか横ばいしかありません。「損をした」という話を聞くとき、その人はトレンドが下向きになっている株式を持ち続けていることがありますが、これはいけません。儲かっている人は上向きのトレンドをきちんと押さえています。
儲かっていたのに売りそびれて損をした、という人もいますが、そうならないために天井や大底のときに表れる特徴的な値動きを分析するのがフォーメーション分析です。これにより株価の状況が分かり、株式を持ち続けるほうがいいのか、売ったほうがいいのか、判断ができるようになります。バブルのときにも株価は最高値にありがちな動き方をしていましたし、リーマン・ショックのあとの大底も特徴が出ていました。
しかし、株価は天井と大底だけでなく、途中でも上がったり下がったりします。ここをうまく捉えて短期間の売買に活かすのがオシレーター分析です。
この三つを覚えることによって、数日・数週間で売買を繰り返すような取引をする方はもちろん、何十年に1回だけしか投資しないような方でもチャンスを見つけることができるようになります。もちろんテクニカル分析は万能ではないので、間違ったシグナルについても説明しています。
また、より分析の精度を上げるために、テクニカル指標の微調整についても解説しています。これは初心者向けの本では珍しいでしょう。例えば、チャートの期間を変えると、売買のタイミングを変えるべきだということが浮き出てくるんですね。自分に合ったテクニカル指標を作っていくことで、売買タイミングの精度も上がっていきます。
株式取引は経済合理性に適っている
――本書がいう「ど素人」はどういう方を想定しているのでしょうか。
福永:これから株式投資を始めようという初心者の方、1冊読んでうまくいっていない方などですね。ファンダメンタルズ分析を勉強して、次にテクニカル分析を勉強しようかと考えている方にもおすすめです。何百種類もあるテクニカル指標をいきなり選ぶのは難しいので、本書を参考にしてみてください。
――その意味では、本書はすでに株式取引に興味がある方に向けた入門書ですね。そもそもの話になりますが、どういう方が株式取引をしたほうがいいのでしょうか。
福永:老後の生活を不安に思っていたり、お金の運用をどうすればいいのかと考えたりしている方でしょうか。社会人になって就職し、給料の一部を銀行に預けていても、まったく増えていきません。普通預金どころか定期預金ですら金利は1%に満たない状況ですからね。これからの自分の生活を考えるにあたって、貯金しても積み上っていくお金はほとんどないわけです。さらに生涯賃金も下がっています。こうした中で老後を考えるなら、株式取引に目が向いてくるでしょう。
別の投資としては不動産と為替がありますが、不動産は流動性が低いですし、為替は値動きが激しくレバレッジがあるため出入りする金額も大きくなってしまいます。つまり、株式取引が経済合理性に適っているんです。会社の業績がよくなれば株価が上がりますし、株主還元も実施されます。いい会社を見つけて投資できればお金が働いてくれるんです。株式取引は人生設計において大きな選択肢になると思いますね。
株価チャートは無数の投資家の心理と行動の表れ
――とはいえ、株式取引は貯蓄の先のものとして考えがちで、なかなか踏み出せないのではないでしょうか。「損しそう」というイメージが強い気がします。
福永:「損しても勉強だ」と言う人もいますが、私は間違いだと思います。基本的には、投資は知識が成功に繋がります。世の中の知識、企業の知識、テクニカル分析による売買タイミングの知識が頭に入っていれば、やらなくていい失敗は確実に減ります。
世の中や企業の知識があれば持っているべきでない株式が分かりますが、そこまで詳しい情報がなくても売買タイミングの分析を行なうことができます。
株式取引にはいろいろな人が参加しています。私が知らない情報を知っている人がいたとしたら、そういう人が「ダメだ」と判断したからこそ株式が売られて株価が下がるんです。国内外、何百万人もの人が考えて売り買いした結果が株価に反映されているわけです。なので、テクニカル分析で下降トレンドになっていると分かれば、誰かが長期投資を薦めても、自分で売りの判断ができるようになります。
知識があれば、他人の話を鵜呑みにして損失を出し続ける失敗は回避できると思います。ですが、怖いのは突発的な出来事、例えば企業の不祥事などです。とはいえ、不祥事が起きたとき売ったほうがいいのか、それともまだ持っていたほうがいいのか、という判断はテクニカル分析で行なうことができます。他人がどう考えて売買しているかが分かるからですね。すべて株価に表れているんです。
株式取引を初心者が貯蓄の延長として考えるのは大事です。そこから一歩踏み出すのに必要なのは知識です。株式取引は書籍を読んだり株価を見たりすることで疑似体験できますから、それらを自信に繋げてもらいたいですね。
――本書を読んだとき、最初にタイトルの「株価チャートを読む」ことがどういう意味なのかと考えました。これは株価という数字が上下している理由を分析するのではなく、自分以外の人の心理や判断を分析することなんですね。
福永:投資家の心理は株価のトレンドに表れますよね。本書でも、トレンド分析を最初に解説しています。これは初心者だけでなく、中上級者にとっても重要です。株価が右肩上がりの企業は評価されています。一方で、右肩下がりの企業は評価されていないということになります、いくら業績がよくても評価されていないこともありますが、そういう状況を投資家の心理に置き換えてもらえば、判断の材料に使えますよね。
もう一つ大事なことは、投資先の企業に惚れ込まないことです。プロ野球でも、チームのファンになると最下位になっても応援し続けます。プロ野球なら毎年順位がリセットされるからいいんですが、株価は評価が下がると価値も下がって投資した分のお金が減っていきます。だからこそ、トレンド分析を一番に頭に入れてほしいですね。
業績はよくても過小評価されている、であれば将来は?
――最後におうかがいします。業績は過去最高のいまと、かつてのバブルのときとで、これほど平均株価が違うのはなぜなのでしょうか。
福永:それは評価の違いが表れているからです。1980年代末というのは数年前からずっと経済成長を続けてきていた時期です。三菱地所がロックフェラーセンターを購入するなど、日本は世界一だと考えられていました。誰もバブルとは思っておらず、そういう意味で過大評価されていたんです。
逆にいまは過小評価されています。当時は大学を卒業した社会人にとって、薔薇色の人生が待っているという社会でした。いまは高齢社会になって年金の負担も大きく、給料も上がらない。そういった将来への不安などが株価の高値を抑えてしまっているんです。先行き不安は株式取引において最大のマイナス要素ですね
株価の推移を見ると、当時と比べていまの企業評価が低いことも分かります。しかし、これが今後どうなるかというと……株価は上がっていくのではないか、と頭に浮かんでくるはずです。
このように、投資家は先を読みます。つまり、株式取引を勉強するうえで重要なことは先を読むことです。そのために必要なことが知識です。私は知識こそがチャンスや成果を導き出す根源だと思っています。いつから勉強しようと、早すぎることも遅すぎることもありません。知りたいと思ったときが知るべきタイミングです。