いいエフェクトを見れば、自分でも作りたいと思うようになる
――ktk.kumamotoさんは『Unity ゲームエフェクト入門 Shurikenで作る!ユーザーを引き込む演出手法』でエフェクト作成の基礎を解説されていますが、どういう経緯でエフェクトアーティストになったのでしょうか。
kumamoto:私は昔からゲームがとても好きでした。小学生の頃は『ドラゴンクエストV』に夢中になりすぎて親の話を全然聞かなったので、何度かスーパーファミコンを壊された思い出があります。中学・高校時代はオンラインゲームの『ラグナロクオンライン』にはまってしまい、そのときもゲームに一生懸命でした。
そして、地元の専門学校のゲームクリエイター学科に入学したのちに、背景3Dアーティストとして、ゲーム会社に勤めることになりました。入社後は4年間、背景の作業とデバッグ(テストプレイやチェック作業)を主に行なっていましたが、エフェクトの仕事を手伝うきっかけをいただいたんです。そこからエフェクトに取り組み始めて、5年ほど経ちました。
これまでエフェクトの仕事は、PSPとPS Vitaのゲームエフェクト、フィーチャーフォン向けのフラッシュアニメ、Unityによるスマートフォン向けのゲームエフェクトなどを作成してきました。直近の仕事では、UI設計を任されており、エフェクト業務からは少し遠のいていましたが、手が空いているときにはエフェクト業務の手伝いをしています。
――いままで参考にしたゲームフェクトはありますか?
kumamoto:最近では『FINAL FANTASY XIV』と『ドラゴンクエスト モンスターバトルロード』のゲームエフェクトが好きですね。
『FINAL FANTASY XIV』のエフェクトは、一つ一つのエフェクトが細かいガラス細工のように組み合わされていて、繊細で丁寧な作りになっています。よくパッチトレーラーなどを見て勉強させていただいてます。
『ドラゴンクエストバトルロード』は奥義を発動した際にカットシーンが入るのですが、それがとてもかっこいいですね。とにかくカメラがよく動き、演出のテンポとカメラワークとエフェクトがユーザーが気持ちよく感じられるように作られています。はじめて見たときは「すごいものを見つけた!」と喜びと感動がありました。私は仕事でモーションやカメラワークをつけることはないのですが、自分でも演出まで作れるようになりたいと思うほど、強い刺激を受けました。
エフェクトはユーザーに何を伝えているのか
――エフェクトはゲームに不可欠な要素ですが、そもそもエフェクトはなぜ必要なのでしょうか。
kumamoto:私がゲームエフェクトを作る際に考えていることは、そのエフェクトが何を表すためのものなのかということです。炎のエフェクトであれば燃えていること、ヒットエフェクトであれば攻撃が当たったことを伝えています。マップ上で禍々しい光のエフェクトがあれば、近づいてはいけないエリアかもしれないということを伝えています。
ユーザーはこうしたエフェクトを見ることで、ゲームの状態や状況を知ることができます。つまり、エフェクトはゲームが表現したいことをユーザーに分かりやすく伝えるお手伝いをするものなんです。
エフェクトがあるゲームとないゲームでは、ゲームの面白さにも大きな違いが出ます。ゲームはシナリオ、キャラクター、ゲームのルール、音楽、演出などたくさんの要素が合わさって初めて、面白さを表現することができます。それぞれの要素に魅力がなくてはいけませんが、エフェクトも同様にゲームプレイを盛り上げたり、遊びやすくしたり、ゲームを面白くするための大事なスパイスになっています。
魔法を唱えたときに何もエフェクトが出ずに敵がやられると、結果はいいのですが見た目はとても寂しくなります。ですから、派手な炎のエフェクトが発生して敵に当たり、大爆発を起こす演出を入れて、攻撃がヒットしたこと、そして爽快感をユーザーに伝えなければなりません。
また、エフェクトはさまざまな状況を演出する手段にもなります。キャラクターが毒状態になった場合、キャラクターの頭上から紫色の泡が出ていれば、「毒状態」だと文字で表現しなくても毒状態であることが認識できます。
環境もエフェクトによって表現することができます。風、雨、雪などのエフェクトを作成すれば、フィールドの状態を表現できますよね。カメラに映るレンズフレアなども意図的にエフェクトを入れることで、よりリアルな世界を表現できます。
ですが、気をつけたいこともあります。ゲームエフェクトはかっこいい演出を可能にしますが、かっこよくしたいがために本来見せるべき表示物(キャラクターなど)が見えないくらい過剰なエフェクトを作り、そのせいでゲームが処理落ちすることもあります。派手なほうがいいと考えて、必要以上にエフェクトを盛ってしまいたくなるんですね。
エフェクトはあくまでも、キャラクターや世界やシナリオなどをより魅力的に見せるためのスパイスです。なので、適当、適切、適度な表現を求められます。時に派手に! 時に控えめに……。そしてもちろん、処理落ちが発生しないように。ユーザーにストレスを感じさせないよう、最適化されたエフェクトを作ることがなによりも大切です。
独自ツールの時代から、誰でも使えるツールの時代へ
――それは、なによりエフェクトがユーザーのゲームプレイを豊かにするということですね。その重要性は昔もいまも変わらないと思いますが、なぜ改めて本書のようなエフェクト入門書が必要なのでしょうか。
kumamoto:実は、以前はほとんどの会社が独自のエフェクト作成ツールを持っていて、各社のエフェクトデザイナーしかそのツールを使いこなせませんでした。ですが、UnityやUnreal Engineなどのソフトの登場により開発環境が変わりました。これらのソフトにはエフェクトツールが入っているので、誰でもエフェクト作成を行なえるようになったんです。しかも基本的に無料で使用できるので、個人でも企業でも同じ開発環境が用意されたことになります。
各社独自のエフェクトツールは、プラットフォーム(PSP、PS Vita、Wii、WiiUなど)が新しくなるたびにエンジニアによるメンテナンスが必要でした。メンテナンスにはかなりのコストがかかってしまうため、中小の会社では専門のエンジニアを立てることが難しかったと思います。
しかし、Unityなどのミドルウェアにはエフェクトを作る環境が用意されており、各プラットフォームに対応した設定の変更は容易になりました。もちろん特殊な表現をしたいならツールの拡張が必要な場合もありますが、そうした拡張も容易にできるような設計になっています。
エフェクトを作ったことがなくこれから学習したいという方は、Unityが最適だと思います。その理由の一つは、エフェクト作成機能であるshuriken(Particle System)が、パラメータを調整したときリアルタイムで画面にビジュアルで反映してくれることにあります。編集の結果をリアルタイムで確認できることは、いまでは当たり前のように感じるかもしれません。ですが、昔はエフェクト一つを確認するのに各プラットフォームごとのSDKを使用してコンバートを行なったあと、実機に転送してやっとエフェクトがどんなビジュアルになっているか確認できたんです。
さらに、UnityではPC環境でゲームを実行することができ、実際のゲーム中でエフェクトが発生するシチュエーションを再現し、作ったエフェクトを確認することができます。位置やサイズの調整、発生タイミングのチェックなど、細かく確認と調整をすることが可能です。
このように、Unityはとにかくエフェクトのクオリティアップに多くの時間を割ける環境になっています。なので、私はエフェクトを学習するのに最適なツールがUnityだと考えています。
エフェクトの勉強は、とにかく体験して真似ること
――最後に、ゲームエフェクトを作りたいと思っている方に、どんなふうに勉強すればいいのか、メッセージをお願いします。
kumamoto:いいゲームエフェクトを作るために必要なことは、どの分野でも同じだと思いますが、いろいろなエンターテイメント作品を見たり遊んだりしてエフェクトを体験し、実際に真似て作ることの繰り返しだと思います。
また、一つずつチャレンジを繰り返して、できることを増やすのもスキルアップに繋がるでしょう。偉そうに言っていますが、当たり前のことですよね。私ももっともっといいゲームエフェクトを作りたいと思っているので、これからも勉強していきたいと思っています。
エフェクトやゲームの制作は、苦しい作業がたくさんありますが、楽しい作業でもあると思います。ですが、誰でも気軽に始められるこの時代は、とても幸運な時代です。ぜひUnityでエフェクト制作、そしてゲーム制作を楽しんでください!