「なぜそんなに社員の挑戦を後押しするのか?」――そのように尋ねられることもありますが、私が入社した1990年代なかば、翔泳社は「社員の挑戦が進める会社」でした。私も、小さな会社だから自由にやりたいことに挑戦できるはず、コマにならず自分でコントロールできるはず、と目論んで、この会社を選びました。その読みは当たり、自由にやりたいようにやってきました。
というと、勝手気ままに聞こえるかもしれませんが、それはそれで、責任が伴います。失敗したら敗戦処理も生じるし、人のせいにできないし、協力してくれた社内外の仲間にも申し訳ない、などいろいろオツリは返ってくるので、けして勝手気ままにはできません。それなりに熟考し、周囲に意見を聞いたり、調査したり、と当たり前の準備を入念に行ってからなにかを始めた、というところです。
それは、社内の共通マインドでした。そういう人が集まって、翔泳社という会社をカタチ作っていました。それこそがDNAだと思っています。
いまは、会社としてもそれなりに大きくなり、「小さな会社だから自由にできる」ほどゆるくはありません。決まり事もいろいろとあるし、承認フローも存在します。「勝手にやってはダメだよ」と言う側になってしまい、発案者がひるんで気持ちを引っ込めてしまうような場面に遭遇することも少なくありません。だから「(でも)ぜひ挑戦してもらいたい」と後押しをプラスすることで、進める勢いがついてくれたらいいな、と思っています。会社としての成熟が、成長を阻害する要因にならないようにたくさん後押しする、ということになるんでしょうね。
翔泳社はコンテンツメーカーとして、紙書籍や電子書籍、Webメディアやイベントなどを行っていますが、共通しているのは「役に立つ」ということです。単なるエンタメやフィクションはやりません。誰かのなにかに役に立つコンテンツを輩出していきます。
「役に立つ」ためには、理解しやすい、見つけやすい、手に入れやすい……いろいろな観点で工夫が必要です。
紙の書籍で届けていたコンテンツを、手元のスマホで見られるようにしたい、日々のホットな情報を交えてオンラインで読みたい、実際に話を聞いてみたい、というように「役に立つ」の周辺ニーズに即して、媒体(伝え方)は多様になっていきました。今後もそれは変わりません。
紙の本に固執するつもりはありません。私個人としては紙の本への想いがありますし、紙の本がこの世から無くなるとも思っていません。でも、ほかの媒体で届けるコンテンツにもそれぞれに長所があるので、うまく使い分けていきたいです。
会社として、新しい媒体には、その都度、早めに挑戦する姿勢を大切にしています。いや、社内の誰かがやりたくてウズウズし、毎度始まっていると言ったほうが正しいかもしれません。自社のECサイト(SEshop.com)を始めたのも、電子書籍を販売し始めたのも、業界内ではトップバッター組でした。早すぎて失敗したこともないわけではないですが、それも重要な経験だし、「あのとき始めていてよかった」ということはとても多いです。
変化には柔軟でいたいです。世の中も業界も変化は早いし、その波にうまく乗って泳いでいかないとすぐに沈んでしまいます。外から見えることだけでなく、社内のツール類も頻繁に変化するので、「パソコンが使えないおじさん」なんて、翔泳社ではやっていけません。2025年に40周年を迎える会社ですが、今後も変化に柔軟で、若々しい会社でありたいなと思っています。「創立xx年、重厚な歴史が織りなす伝統の」ではなく「創立xx年、いまだ最先端で挑戦をし続ける」と言われるような会社を目指します(笑)。
翔泳社は、やりたいことや自分の考えを持っていて、他力ではなく自力で進みたい、という人には向いている職場です。逆に、指示待ちタイプはつらいかもしれません。
よくも悪くも「放っておく」傾向があるので、尋ねられれば教えるけど、尋ねられなければ教えないところがあります。待っていてもおそらく誰も教えてくれないので、自分から聞いて提案していくような気質が求められます。クリエイティブ気質と言ってもいいかもしれません。
それは、編集部隊だけでなく、コンテンツを読者やお客様に届ける営業部隊、実現を後押しするサポート部隊、会社を回していくバックオフィス部隊、全員に求められます。すべての仕事で、すべての局面で自分なりの考えと工夫を盛り込んで、クリエイティブでいてほしい。
お給料をもらうためだけに働く、文句を言われない程度に過不足なく働く、というのはまったくクリエイティブではないし、定められた器に水を80%程度注ぐだけでしょう。それだと仕事は面白くない。少なくとも1日の1/3を費やすわけだから、仕事だって面白く楽しいものであってほしい。
あふれるくらい水を注ぎたい、明日はもっと大きな器を用意してそれをいっぱいにしたい、そんな気概で仕事に向き合ってくれると、その人の人生も豊かになるし、会社も活性化するし、社長としては最高にうれしいですね。