ビッグデータ利活用の究極は「料亭の女将」
――人の行動はモノによって大部分を支配されていますが、中西さんがおっしゃるような形でIoTが発展したとき、人の行動はどう変わるとお考えですか?
中西:私たちはもうコンピューターが動いていることを意識しなくてよくなります。どういうことかというと、スマートフォンですら何かするには「実行」ボタンを押さなければなりませんでした。これからはそれを意識せず、いつの間にか表示されている、いつの間にか知っている、という時代が来ると思います。人の行動は劇的に変わります。
そして、ビッグデータとAI、IoTを最大限に利用したサービスというのは、実は昔からある「料亭の女将」です。ある男性Aさんが女性Bさんと料亭に行ったとします。別の日にはAさんは女性Cさんと料亭に行きましたと。でも、女将さんはAさんとBさんの関係を知っているけれど、絶対に口外せずにAさんにとってベストのおもてなしをするじゃないですか。あるいは、おしぼりがほしいと思ったときにはすでに用意されている、その感覚です。
このように、お客さんを大事にしているお店は、お客さんがどういう人かを理解したうえでサービスを提供しています。それがビッグデータやAIによるデータ分析で民主化される、一般化されると、数多くの顧客を相手にする企業でも、「料亭の女将」のようなサービスを提供できるようになるんですよ。それは大企業に限らず、中小企業でも同様です。
フローの時代はAIに任せてしまえばいい
――ストックとフローの考え方が出ましたが、「第3章 いつもβ版サイクル」がまさにフローを説明しているんですね。「料亭の女将」になろうとしたら、フローのデータについて理解する必要がありそうです。
中西:そのとおりです。第3章で言いたいことは、データを一度分析して結果が出て、「ああよかったね」で終わってはいけないということです。結果が出れば改善策を講じますが、その改善策に対しても何かしらのデータが出てきます。なので、データが更新されるたびに何度も分析をし続けなければなりません。これがβ版サイクルです。
そしてそれこそが、いままでのデータ分析とビッグデータ分析の最大の違いです。現実世界に対応するビッグデータはどんどん集まってくるので、そのときそのときで分析し、行動していく必要があります。
――ストックできず常にフローでデータが更新され続けるとなると、分析する人が足りず、社会も疲れてくるように感じますが、どうなのでしょうか。
中西:そこがポイントで、休む必要のないAIを使うんです。AIが得意なことはAIに任せると割りきって、人間は休みましょう。その分、AIにできない「判断」や「選択」、その他の生産的な活動をすればいいんです。
パーソナルデータの提供は企業との信頼関係で決める
――仮にIoTの分野をAIに任せきるとして、個人がその恩恵を受けて快適な生活を送るとなると、個人情報を企業に渡すことが不可欠です。「第4章 サービス時代とパーソナルデータ」ではそうした内容が扱われていますが、来る未来に向けて、私たちはどういう態度を取ればいいのでしょうか。
中西:個人がパーソナルデータを守りたいのであれば、怪しいサービスを使わないことです。ですが、プライバシーを守りたい気持ちに反して、ちゃんと知ってもらいたいという欲求も人間は持っています。企業としては知ったほうがよりよいサービスを提供できるので、お互いの信頼関係が大事ですよね。
顧客側は「便利なサービスを提供してくれるなら信頼してパーソナルデータを預けます」という態度で、企業側は「では大切にお預かりします」という態度でいれば、それほど大きな問題にはならないはずです。
もちろん誰もがすべてのパーソナルデータを渡す必要はなく、「ここまでの情報は渡してもいいけれど、これ以上はダメ」と線引きをしてもいいんです。その線引きはみんな千差万別でしょう。企業側が、提供されたパーソナルデータだけをもとにAIを使って顧客との1対1のサービスを提供すればいいんですから。
――私たちは誰もが顧客・消費者ですから、本書の内容とは無関係でいられません。本書は社会学からデータサイエンスまでを扱う、一見すれば専門家向けの本に感じますが、読んでみるとそうではありません。ビッグデータの利活用に興味がある人は、ひとまず本書を読んでおけばデータ分析の現状を押さえることができます。中西さん、ありがとうございました。
もしデータ分析が必要だと感じられましたら、『楽しいR ビジネスに役立つデータの扱い方・読み解き方を知りたい人のためのR統計分析入門』や『達人に学ぶGoogleアナリティクス実践講座』など具体的なツールの解説本を読むのがいいのではないでしょうか。